第12話 ゴリラ・モンド

 電話をかけてしばらくすると、呆れた表情を浮かべた私服のディアナがやってきた。


「ったく、何やってんのよあんたは」

「……面目ない」


 ベオウルフの調査をあれだけ嫌がっていたというのに、ベオウルフ関連の事件に巻き込まれた以上、返す言葉もない。


「パパ、どんな事件が起きたの!」

「何でアイまで連れてきたんだよ」


 ありがたいことこの上ないけれども。


「付いていくって言って聞かなかったのよ。あの事務所に一人でお留守番させるのも忍びなかったし、連れてきたってわけ」


 ディアナの手はアイの手をしっかりと握っていた。

 好奇心旺盛なアイは目を離すとすぐにどこかへ行ってしまうから、ディアナの怪力でしっかり握っていてくれるのならば頼もしい限りだ。握力が強すぎて痣にならないかが心配ではあるが。


「あの、モンド警部。この男性とはどういう関係なのでしょうか?」


 黙って俺達のやり取りを見ていた若い刑事がディアナに怪訝な顔で尋ねる。

 無理もない。

 有休消化中の上司が被疑者の身元保証人として現れれば驚きもするだろう。


「そ、それは……」

「それは?」


 自分が担当している事件の調査を探偵に依頼していた。しかも、その探偵の娘の母親代わりをして依頼料の代わりにしているとは言いづらい。

 苦悩の果てにディアナは苦虫を噛み潰したような表情で告げる。


「彼氏、よ……」

「モンド警部に彼氏ィ!?」


 若い刑事の叫び声で一斉にその場にいた刑事達が驚愕の表情を浮かべてこちらを見てくる。

 その表情でディアナが部下達からどう思われているかが理解できた。


「何ていうか、ドンマイ」

「言いたいことがあるなら聞こうじゃないの……!」


 ディアナのこめかみに青筋が浮かび上がる。

 これ以上刺激すると本当にキレそうだ。


 そんな俺達の間に割って入る者がいた。


「あーら、ゴリラ・モンド警部ではありませんこと」

「うげっ」


 ディアナの顔が歪む。

 振り向いた先に立っていたのは、面白いオモチャを見つけたような笑顔を浮かべているロゼミだった。


「ごきげんよう! まさかあなたのような怪力ゴリラにパートナーができるとは思いませんでしてよ」

「誰が怪力ゴリラよ。このブルジョワ縦ロール!」


 二人の視線の間に火花が散っているのが見える。

 ディアナはベオウルフの捜査を担当している。

 ことあるごとにベオウルフに挑戦状を叩きつけているロゼミと関りがあってもおかしくはない。


 そして、毎回お約束のようにベオウルフに逃げられているとなれば仲が悪いのも納得だった。

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