【KAC20247】脳のアップデート、忘れていませんか?

下東 良雄

よくいる男

 会社のマドンナをついに落とした!

 俺は優しくて気の利く男だもの!

 俺の頭の中は幸せに溢れてピンク色だった。


 マドンナから妊娠の連絡。

 責任取るよ! 幸せな家庭を作ろう!

 マドンナの純白のドレス姿、綺麗だろうな。


 マドンナと結婚して、新しい生活が始まった。

 でも、つわりが辛いからって、ひとが飯食ってる時にさぁ……

 黄色い胃液を思い出して、食欲がなくなった。


 子どもが産まれた! 女の子!

 ますます仕事を頑張らなきゃな!

 赤ちゃんは可愛いなぁ♪


 夜泣きがうるさい。

 母親なんだからどうにかしろよ!

 仕事で疲れていた俺は、顔を赤くして怒鳴った。


 育児に協力? 俺、働いてるのに?

 お前、専業だろ! 昼間寝れるんだから、甘えんなよ!

 なぁ、味噌汁は赤だしにしろって言っただろ!


 家事に協力? お前誰にメシ食わしてもらってんの?

 どうせ家でヒマしてるんだろ? まだ楽したいの?

 家庭的とか自分で言ってたくせに、真っ赤な嘘だったんだな。


 家、帰りたくねぇ。小言が多くてうるせぇ。

 髪もボサボサで化粧もしてねぇもんな。

 残業ってことにして、赤坂にでも遊びに行くか♪


 上司と昼飯。妻の愚痴をこぼす。

「脳をアップデートしろ」と呆れられた。

 俺の言動や行動は真っ赤でアウトだって。何言ってんだ?


 ある日、家に帰ったら誰もいなかった。

 もう深夜だけど、子どもと買い物にでも行ってんのか?

 居間のテーブルの上には、署名済みの緑色の紙が置いてあった。


 数年ゴネて離婚。同僚たちとの飲み会の席でぶちまけた!

 元妻がどれだけ酷い女なのかを! 俺は可哀想な男なんだと!

 同僚たち、特に女性たちからは、白い目で見られていた。


 子どもとの面会日。おもちゃで釣ればこっちのもんだ。

「おじちゃん、だーれ?」

 娘の一言に真っ青になる。


「なんかこわぁい……やだぁー! パパにいちゃーん!」

 俺から泣きながら逃げ、元妻の実弟の影に隠れた。

 娘の中では自分が父ではないことに、目の前が真っ暗になった。




 俺は何か間違っていたのだろうか?



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