「あお」から「きいろ」へ

わたくし

すべてのはじまり

 新興宗教『太平道』の教祖張角は憤っていた。

「この世の中は間違っている!」

「だから、間違いを正さないと……」


 最近の拝金主義の風潮は、国や人心を腐敗させていた。

 市井の人々は目先の利益だけを追い求め、国の役人は賄賂や利殖に励んでいた。


 国のトップの皇帝でさえ、商売を始める始末である。

 彼が始めた商売は、売官・売爵である。

 国に多くの金を払った者に、官職や爵位を与えていた。

 地方の豪族は家の箔をつける為に爵位を、富豪達は金を稼ぐために官職を買っていた。


 夏侯嵩という男が大金で高官の職を買い、宦官で実力者の曹騰の養子になり曹嵩と名乗っていた。

 特に人気の官職は地方の徴税官で、希望者が殺到していた。競売で値を釣り上げていても、皆高値を払って買っていた。


 徴税官は国に納めるノルマさえ払えば、残った税金は全部自分の物にできた。徴税官は短い任期で金を稼ごうとして、苛烈な税金を地方民に押し付けていた。

 地方の民は疲弊して、土地を捨て流浪の民になる者が続出した。

 都市の街角には職や食べ物の無い貧しい人々が溢れていた。


 皇帝に諫める者もいたが、遠ざけられて免職や閑職に追いやられていた。

 志のある者は中央に出仕せずに地方で隠棲していった。


 張角は貧しい人々に施しや病気の治療をして、信者を増やしていった。

 地方の豪族の中には、中央から派遣される徴税官に対抗する為に『太平道』に寄進する者も出てきた。

『太平道』に人々が集まり実力が備わってくると、張角は人々を救う為に漢王朝打倒を考え始める。

 先ずは人心を掌握するキャッチフレーズを考える。

「漢王朝のシンボルカラーはあおである、蒼に対抗する色は黄色である」

「我々のシンボルカラーは黄色にしよう、信者に黄色の鉢巻きをさせるのだ!」



 張角は信者達の前で叫んだ。

「蒼天すでに死す! 黄天まさに立つべし!」





 時は流れ、曹嵩の孫の曹丕が漢王朝から禅譲されて魏王朝を建国した。

 魏王朝の最初の年号は「黄初」である。

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