第四話 戦士見習いはパンツを見せる
…
……
………
「……おい、お前。今の言葉は本気か?」
「勿論だ。こんな時に嘘や冗談を言える訳ないだろ!」
「いや、そっちの方がまだ良かったぞ。もしかして、リュウ、お前……」
ハッと気づいたリュウは急に早口になって言い訳を始めた。
「ち、違うぞ。俺は男なんかに興味は無い! ただ、俺はお前と一緒にいるのが楽しいんだよ。そもそもこの学園に入ったのもカイがいたからだ。願わくば一緒に住みたいし最後の日まで一緒にいたい。しかし男同士というのが最大のネックになっていた。だから、俺はお前が女になってくれた事がこの上なく嬉しいんだよ」
…………全然言い訳になってない上に、最後に何かアウトな事をぶっ放してないか?
「とにかくっ! 俺にあの”絶望”と戦えるパワーが欲しいんだよ!」
それはわかる。次は命をかけた戦いになるだろうし、どう考えても分が悪い。
「だからっ! 俺に力をっっっ!」
ダメだ。こいつすぐにでも全力土下座する勢いだ。
「……しゃーねーな。それくらいならやってやんよ」
そう言って俺はフリルスカートの横側をわしづかみにして雑に上げようとしたが、リュウは『やめろー!』と更に大きな声を出してそれを止めた。
「何だよそれは! 違うだろ! 全然違うだろ!」
「見せろだのやめろだの、一体何なんだよお前は!」
俺も思わず大声をあげる。
「……カイ。お前は死を覚悟して死地に赴く友人に対してそんな雑なパン見せをして、そいつが死んだら後悔しないと言えるか? お前ならわかるだろ? パンツを見せるという行為の本質を。それは……」
また早口で変な事をぬかし始めた。しかし、確かに俺はこいつの性癖をよく知っている。こいつの秘蔵コレクションを見せてもらったこともあるし一目瞭然だ。
……まぁ、いい。こいつは死ぬ覚悟だし、本当に死ぬかもしれない。むしろ死にそうだ。なら、最後にひと時の夢を見せるのもアリなのかもしれない。それでもし万が一生き残ったら、その時はその記憶が吹っ飛ぶまで斧で頭をぶっ叩くしかない。
俺は少しの時間、目をつぶって覚悟を決める。
これが親友に送る、最後で最高の”たむけ”だ。
* * *
「……わかったよ」
俺はスカートを揺らしながらゆっくりと後ろを向き、リュウと少し距離を取る。雰囲気が変わった事を察知したリュウは、何も言わずに俺の動向を見守っている。
「ねぇ、リュウ君。私ね? リュウ君には本当に感謝しているんだ。今までの事も、そして今回の事も」
そう言って、笑顔を見せながらリュウの方を向く。
「カイ……」
「ありがとう。リュウ君が来てくれて本当に嬉しかった。だからお礼に、私の……」
そう言いながら、俺は人差し指と親指でそっとスカートの端を掴む。リュウの視線が俺の顔から手とスカートに移る。
「……これが今の私に出来る精一杯だから、ねっ?」
焦らすようにゆっくりとスカートを捲り上げていくと、白く透き通るような柔肌の太ももも、それに合わせて少しずつ露わになっていく。
「カイ……」
「来ちゃダメっ! 私、とっても恥ずかしいんだよ?」
その俺の声に反応して、リュウは動けなくなる。その代わり呼吸が荒くなり、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてくる。
その反応を確認しながら、俺はパンツが見える直前でスカートを止めると、リュウは焦ったような表情を見せる。
「これは今回だけだからね。だから、お願い。リュウ君……」
俺は目線をリュウからそらし、恥ずかしそうな表情を見せながら、そしてスカートを上まで捲る。
「私の為に、あいつをやっつけて」
「…………」
リュウは何も言わず、目の前にあるピンクの布を全集中で凝視している。
これがこいつの一番望む演出だ。きっと頭の中では大変な事になっているに違いない。
俺の親友リュウよ。お前はこれで満足か?
これで、心おきなく死ねるか?
* * *
そう思いながら、頭の中で秒を数える。
もうこの夢も醒める頃合いだ。
(……さーん、しー、ごっ!)
俺は一気にスカートを下げて、元の俺に戻る。
こいつにとって夢のような時間は終わりだ。
「おい、リュウ。これでいいか? お前の望み通り、俺は全力でやってやったぞ」
「…………」
「この俺がここまでやったんだ。どうせ死ぬなら奴も道連れに……っておい!」
目の前にいる大男は、目から滝のような涙を流しながら失神していた。
「おいっ! どうしたリュウ!」
俺はリュウの身体を力強く揺さぶると、それに反応したかのように呟く。
「……ちゃん」
「?」
「う、うおおおおおぉおおおぉぉぉぉおおおおおぉぉおおっ!」
そして、野獣のような雄たけびが辺りにこだまする。
「な、なんだ!?」
「いくぞぉぉおぉぉおぉぉおおおっ! やっつけてやるううぅうぅぅううぅ!」
リュウは自分の斧を持ち、すぐに岩陰から飛び出そうとする。
「ちょっと待てリュウ、せめて作戦とか考えないと……!」
「とにかくカイは近くで隠れてろ。そして俺の合図で一気に突っ走れ!」
「そんな単純な作戦……」
「知ったことか! 俺はこの心から、そして身体からみなぎる力を奴らに叩き込んでやる!!」
「……くそっ!」
俺はこいつの話に乗るしかなかった。
そうして、さっきと同じ場所で待ってるラオン達を確認した。俺は近くの岩場に隠れて、ここから様子を見る事にする。
…
……
………
「やっと来たか。てっきり諦めたかと思っていたぞ! ……あいつはどうした」
「知らないね!」
「なにっ!」
「てめー如きにぃぃい! カイちゃんは渡せねえぇぇぇ!」
(……ちゃん!?)
思わず俺はリュウに一人ツッコミを入れてしまう。
「結局、お前は何も考えずにまた特攻か。弱者の癖に見損なったぞ!」
あの戦闘狂はリュウに対して失望と怒りを隠さない。先ほどとは違う、殺気を帯びた鋭い目で睨む。
これは本当に命の危機かもしれない。しかし、それでも俺はこいつの謎の自信にかけてみる。
リュウはお調子者でバカなのは確かだが、俺の期待を裏切った事は一度も無い。信頼出来る戦友であり親友なのだから。
「ラオンさん!」
「お前らは手を出すな! こいつは俺が相手してやる。それより谷の入り口を固めろ。もう一人が隙を見て突っ込んでくるぞ」
「は、はいっ!」
3人はそう言って、入り口付近で守りを固める。3人ならどうにかなる。4対1という最悪な展開にならなくて良かった。
「うおおおおおおっ! ラオン、いくぞおおぉぉぉっ!」
「馬鹿者が! 身の程を知れ!」
リュウは突撃をしかけ、ラオンはそれを受ける。二人はさっきと同じ光景を見せるが、一つだけ違う事がある。
それは、リュウの気迫が先ほどとは段違いな事だ。
「ぬううぅぅぅぅううぅぅぅっ…… だぁっ!!」
魂の籠もった全力の一撃がラオンに叩きつけられる。
……ガッキィィィン!
「ぬぅっ!」
予想以上の圧力からラオンはバランスを崩し、右足を一歩後退させて踏ん張ろうとする。
「まだまだぁぁあぁぁあっ!!」
これを勝機と見たリュウは更に連撃を繰り出す。
しかし、連撃と言ってもその一撃一撃が非常に重く、リュウの勢いは止まらない。
「こ、こいつはバーサーカーか! もしや薬物か魔法でブーストしている!?」
「そんな生易しいモノでは無い! これはっ、これこそが俺の愛の力だぁあぁぁぁあ!」
「ふざけるなぁ!!」
ラオンは懐に飛び込み、双方の斧が使えなくなるインファイトに持ち込む。
それで一旦状況をリセットする魂胆だが、それこそがリュウの目的だった。
「それを、待っていたああぁぁぁあぁあ!」
「ぐぬぅっ!」
リュウはラオンに一気に組み付き、そのまま岩壁の方へ叩きつける。
ついに最大の障害だった、ラオンを動けなくしたのだ。
その瞬間、リュウが叫ぶ
「今だぁぁ! カイーッ!」
「おおっ!」
この絶好のチャンスを逃す訳にはいかない。俺は二人の横を一気に突っ切るべく加速を始める。
「ぬぅっ! こいつらぁっ!」
ラオンはリュウを離れさせようと、左腕で先ほどダメージを与えたあばら骨をぶん殴る。
「……ぐっ!」
「リュウ!」
「俺にかまうなっ! 行け、カイちゃん! リィアによろしくな!」
「……うおおおおぉぉっ!」
俺はその声に答えるように全速力で二人の横を突っ切る。
その瞬間、リュウの顔を見ると、『見たか!』と俺に向けて勝ち誇った笑みを見せていた。
――死ぬなよ!
――お前も頑張れよ!
俺達は一瞬の目線のやり取りで、最後の言葉を交わす。
ここからゴール地点まではあと僅か。
3人を倒して最後まで突っ切ってみせる。
俺は、この学園から脱出するんだ。
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