10
あっはっはっは! という、大きな笑い声が部屋を包み込む。
「その通りだよ、アッシュ・ルヴァン君」
どこからともなく、黄金の神父服を着た、優男のような背の高い青年が現れる。
しかし頭には角が4本生え、腰の下からは3本の尻尾が伸びている。竜人形態の、上位種竜のようだった。
彼はルナの元へと歩みながら、話を続ける。
「あ~面白い面白い。その顔が見たかったんだよ~」
「……マカウェル、様」
ルナがその青年、六聖光マカウェルの名を呼ぶ。だがその声は、ほんの少し震えていた。
「……その通り、とは……どういう、意味?」
「言葉の通りだよルナ。キミはその男と、闇竜ザラームの、娘だ」
「「!!」」
マカウェルの言葉に、ルナだけでなく、この場にいる全ての者が目を見開いた。
「キミも今感じているんだろう? アッシュ君がティターノに模倣術を使った時さ、闇の竜力が溢れたもんね」
確かにルナは、目の前の大柄な男に、自分と同じ竜力の気配を感じていた。
「……マカウェル様、その冗談……笑え、ない……!」
そう言いながらも、ルナはなぜか彼の言うことが嘘ではないと、感じてしまっていた。ルナの本能的な何かが、それが嘘ではないと、語り掛けるのだ。
「マカウェル! どういうことだ!?」
アッシュは理解できなかった。突然知るその真実についてもだが、それを隠す様子もなく飄々と語るマカウェルの狙いが、まったくもって分からない。
「どういうことって言われても~。可愛い可愛いルナのための計画、ってとこかな?」
当惑の色が増すアッシュをよそに、マカウェルはルナに微笑みかける。
「ねえ、ルナ」
ルナはその声に、悪寒のようなものを感じた。
「今の真実を知った上で……そのアッシュ君、殺してくれる?」
「……なっ!」
「光竜様のためにって、自分は非情な女だって、キミいつも言ってるよね? ねえ?」
ルナの呼吸が荒くなる。はあはあという息遣いが、強まっていく。
「まあ、悩むよねえ。ちょっと考える時間が欲しいよねえ。分かるよ分かるよ」
マカウェルはわざとらしく、うんうんと頷いて見せる。
「でもさあ。僕、待つの嫌いなんだ。だ・か・ら、はい」
マカウェルは微笑を浮かべながらルナに右手を向け、呟く。
「
直後、マカウェルの胸部が怪しく輝き、ルナの前頭部に紫色の輪が現れる。
「――ア、アアアアアアアアアアッ!」
「そんな大声も出せるんだね~ルナ」
頭を押さえ叫び声を上げるルナを見て、マカウェルはけらけらと笑っている。
「マカウェルッ!」
アッシュはマカウェルへと駆け出した
迫る憎敵へ、アッシュが斧を持つ右手を振り上げた時――その間に、ルナが現れる。
「!?」
そのままルナは鋭い爪を立てた右突きを、アッシュに見舞った。
動揺しながらも、それを紙一重で避け、アッシュは素早く後退する。
ルナの顔には、苦悶の表情が浮かんでいた。
「……ッ! その子を無理やり操り、親子で殺し合わせるのが目的か……!?」
アッシュの捻り出したような声に、しかしマカウェルは指を横に振る。
「浅いねえ。まあ半分は正解だけど。……言っただろ? これはルナのためだって」
「どういうことだ……!?」
「ルナを、覚醒させるんだよ。闇竜と居たキミなら、無の竜力のこと、聞いてるよね?」
「! 無の力……! 絶望の……!?」
〝無〟の竜力。それはザラームの最期の忠言でもあった、闇、もしくは光の竜力を持つ者のみが持ちうる最悪の力。
闇とは、光があってはじめて『闇』という事象になる。
一切の光が消え、漆黒しか残らなければ、それはもはや、闇ではなく『無』である。つまり――
「そうだよアッシュ君。闇の竜力を持つ者が
次の瞬間――ルナが飛び出し、その鋭利な両爪でアッシュの体を斬り裂こうとする。
アッシュは後退し、必死にルナの攻撃をかわした。
しかしルナは鋭い爪を収めず、右、左へと、次々と振るい続けていく。その顔を、苦痛で歪めながら。
「……い、や……! なん、で……!?」
「勿論絶望させるためにはさ、自分が殺したという自覚は必要だからね。意識はそのまま残してもらって、体だけ無理やり操るって感じで。あは」
ティターノはその光景を、愉快そうに眺めていた。
「程よくルナが育った頃に、無の力に覚醒させて光竜様に献上。ぜ~んぶ僕の計画通り! 後はそうだな、ルナの
「なるホド。やはリ、ルナという名ハ光竜様ガ名付けられたのでハなかったノですネ?」
「当然だ。闇竜が死の間際に名付けやがって。けど竜王の名付けの効力も、こいつが覚醒すれば消えるだろ。次こそ光族の名を付ける。より、洗脳しやすくするためにね。はは」
ルナの耳にはもう、マカウェル達の言葉など入っていない。
ルナの頭は、ただぐちゃぐちゃだった。
突然目の前の人間を父と言われても、正直何も分からない。
しかし、心が拒絶する。
この男を殺してはならないと、魂が拒絶するのだ。
だが、体はいうことをきかない。
彼女にできることはただ、悲痛の声を上げるだけ――。
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