9
リックはゆっくりと牢の端へと移動していた。
リックの竜力――事象反転を使用し、光の牢に穴を空けようとしているのだ。
そのためにまず、事象反転を自身に使用し気配を極限まで薄めていた。
リックはバレないよう丁寧に、しかし手早く行動していく――。
シャーリーはルナに息つく暇を与えず、次々と杖を握り替え、様々な属性の竜力弾を浴びせ続けていた。
ルナの強化された肉体、反射神経によって、直撃こそ一度もなかったが、ルナは苛立った様子だった。ルナは中々攻撃に移ることができないでいた。
「……くっ!」
ついにシャーリーの炎弾がルナを捉えようとする。
ルナは両腕を胸の前で交差させようとするが、紙一重で防御が間に合わず、炎弾がルナの胸部に直撃した。
小さな爆発。ルナの胸元の服が破れ、彼女の竜石が露わになる。
黒く煌めく、3つの竜石。シャーリーは思わず、その竜石に見入ってしまう。
(あれは……闇の、竜石? まだ光竜につく、闇族の竜がいるっていうの?)
「……今のは、痛かった。……もういい、終わらせる」
直後、ルナの竜石が2つ輝き、体から闇の竜力が溢れる。
(今は余計なことを考えてる場合じゃないわ……!)
シャーリーは2本の杖を同時に握り、炎と雷の竜力弾を放った。
――しかし。
ルナの両手から、全く同じ形の竜力弾――だが色は黒の弾、2発が放たれる。
宙でぶつかり合い、互いの竜力弾は相殺された。
(今のは、私の竜力弾……!? でも属性は闇――これってアッシュの――!?)
思考するシャーリーをよそに、ルナが素早く接近する。
「――ッ!」
ルナの正拳突きが、宙に浮く杖を叩き割り、そのままシャーリーの腹部に直撃した。
「シャーリー!」
ルナの一撃で後方に吹き飛ぶシャーリーを見て、アッシュは声を上げた。
しかし彼には、今、別の動揺もあった。
「よそ見カ? 余裕だナ!」
ティターノの左掌から再び竜力の
アッシュは闇影術で、その竜力を模倣し、黒色の細竜をぶつける。
細竜は互いに噛みつき合い、飛び散り、消えた。
(そんな、まさか……!)
アッシュは先ほどから抱く違和感の正体が、分かった。
先ほどルナがシャーリーに放った模倣術を視認したことで、分かった。
ルナの竜力が自分の埋め込む竜石と、
自分と同じ闇影術。
更には闇竜ザラームの竜石と、同じ気配の竜力。
まさか
まさか
まさか――!
「どこヘ行ク!?」
アッシュはティターノの横を通り過ぎ、ルナの後頭部を視認できる位置まで移動した。
ルナの前頭には3本の角が生えている。しかし
つまり角の成長と共に――竜王しか到達し得ない――竜石が8つに増えるという可能性。
つまり、竜王でないのなら、それは、竜王の血を引く、存在――。
その時、パキンと澄んだ音が鳴った。
ティターノとルナが音のした方を見ると――光の牢に、人が通れる程の穴が空いていた。
「アッシュさん! シャーリーさん!」
リックは大声で2人を呼んだ。シャーリーは力を振り絞り、光の牢へと駆け寄る。
「よく、やったわ……! リック」
「させるカ! 出テこいお前ラ!」
ティターノの号令によって、槍を持った蜥蜴竜が続々と部屋の入口から押し寄せてくる。
しかし。
「アッシュさん! 何やってんすか!」
アッシュは動かない。いや、動けなかったのだ。
「まさ、か……! お前は……!」
なぜならば、このルナという竜、いや、竜人が――――
「俺の、娘……?」
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