リックはゆっくりと牢の端へと移動していた。

 リックの竜力――事象反転を使用し、光の牢に穴を空けようとしているのだ。

 そのためにまず、事象反転を自身に使用し気配を極限まで薄めていた。

 リックはバレないよう丁寧に、しかし手早く行動していく――。



 シャーリーはルナに息つく暇を与えず、次々と杖を握り替え、様々な属性の竜力弾を浴びせ続けていた。

 ルナの強化された肉体、反射神経によって、直撃こそ一度もなかったが、ルナは苛立った様子だった。ルナは中々攻撃に移ることができないでいた。


「……くっ!」


 ついにシャーリーの炎弾がルナを捉えようとする。

 ルナは両腕を胸の前で交差させようとするが、紙一重で防御が間に合わず、炎弾がルナの胸部に直撃した。

 小さな爆発。ルナの胸元の服が破れ、彼女の竜石が露わになる。

 黒く煌めく、3つの竜石。シャーリーは思わず、その竜石に見入ってしまう。


(あれは……闇の、竜石? まだ光竜につく、闇族の竜がいるっていうの?)


「……今のは、痛かった。……もういい、終わらせる」


 直後、ルナの竜石が2つ輝き、体から闇の竜力が溢れる。


(今は余計なことを考えてる場合じゃないわ……!)


 シャーリーは2本の杖を同時に握り、炎と雷の竜力弾を放った。

 ――しかし。

 ルナの両手から、全く同じ形の竜力弾――だが色は黒の弾、2発が放たれる。

 宙でぶつかり合い、互いの竜力弾は相殺された。


(今のは、私の竜力弾……!? でも属性は闇――これってアッシュの――!?)


 思考するシャーリーをよそに、ルナが素早く接近する。


「――ッ!」


 ルナの正拳突きが、宙に浮く杖を叩き割り、そのままシャーリーの腹部に直撃した。



「シャーリー!」


 ルナの一撃で後方に吹き飛ぶシャーリーを見て、アッシュは声を上げた。

 しかし彼には、今、別の動揺もあった。


「よそ見カ? 余裕だナ!」


 ティターノの左掌から再び竜力の細竜ワームが飛び出す。

 アッシュは闇影術で、その竜力を模倣し、黒色の細竜をぶつける。

 細竜は互いに噛みつき合い、飛び散り、消えた。


(そんな、まさか……!)


 アッシュは先ほどから抱く違和感の正体が、分かった。

 先ほどルナがシャーリーに放った模倣術を視認したことで、分かった。

 ルナの竜力が自分の埋め込む竜石と、同じ気配・・・・を持っているのだ。

 自分と同じ闇影術。

 更には闇竜ザラームの竜石と、同じ気配の竜力。

 まさか

 まさか

 まさか――!


「どこヘ行ク!?」


 アッシュはティターノの横を通り過ぎ、ルナの後頭部を視認できる位置まで移動した。

 ルナの前頭には3本の角が生えている。しかし後頭部・・・に、小さな角が5本、生えていた。

 つまり角の成長と共に――竜王しか到達し得ない――竜石が8つに増えるという可能性。

 つまり、竜王でないのなら、それは、竜王の血を引く、存在――。


 その時、パキンと澄んだ音が鳴った。

 ティターノとルナが音のした方を見ると――光の牢に、人が通れる程の穴が空いていた。


「アッシュさん! シャーリーさん!」


 リックは大声で2人を呼んだ。シャーリーは力を振り絞り、光の牢へと駆け寄る。


「よく、やったわ……! リック」

「させるカ! 出テこいお前ラ!」


 ティターノの号令によって、槍を持った蜥蜴竜が続々と部屋の入口から押し寄せてくる。

 しかし。


「アッシュさん! 何やってんすか!」


 アッシュは動かない。いや、動けなかったのだ。


「まさ、か……! お前は……!」


 なぜならば、このルナという竜、いや、竜人が――――


「俺の、娘……?」

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