8
その後素早く準備を終えたアッシュ達は、洞窟の開口部、アジトの入口に集まった。
シャーリーは地面に転移竜石を設置する。そのまま竜石に触れていると、竜石が輝き始め、地面から直径10メートル程の円状の影が現れる。
その影は徐々に飛竜の形を造り、影の中にいる者達に自らの影を纏わりつかせ――影の飛竜は飛び立った。
彼らを背に乗せ飛ぶ影竜は、ぐんぐんとスピードを上げ、転移竜石の設置されるマカウェルの居城を目指す。
この超スピードなら、数十分でたどり着きそうだ。
ゴオゴオと風を切る音だけが聞こえ、しかし空気抵抗は竜力によって軽減されている。
「ひゃー! すっごいすっごいです!」
「ふふ、これが転移竜石よ……ってええ!?」
聞きなれた少女の声が、影竜の後部から聞こえた。
アッシュ達が振り向くと、尻尾にしがみつくように乗る、サキの姿があった。サキは「しまった!」という顔をする。
「なんでサキがいるのよ!?」
「あのあの、えっとその……後ろの方で、影の端っこを掴んでたんです」
「いやそういうこと聞いてんじゃないわよ! ていうかさっきのやり取りはなんだったの!? 渡した杖はどうしたの!」
「あの杖はそのう……ショウさんの横に、置いてきまして……。で、ですので! いざという時には彼が戦ってくれるはずです!」
「いやショウもけっこう怪我してたけどね!?」
到着前にすでに疲れた顔をするシャーリーに、サキは申し訳なさそうな顔を向ける。
「私も何か皆さんのお役に立ちたいんですよぅ……! 頑張りますので!」
転移竜石の発動中に、引き返す術はない。たどり着けばそこはもう、敵陣の中。
「これは腹をくくるしかなさそうっすね……」
「……俺が守れば、問題は無い」
アッシュは自分に言い聞かせるようにそう言った。
――あの時、守ることのできなかった自分の娘とサキを重ね、せめてこの少女だけは絶対に守ろうと、アッシュは心に誓う。
「もう! 分かったわよ!」
やけくそ気味に声を出すシャーリーの後ろで、サキは興奮した様子で口を開く。
「それでそれで、どうやってそのマカウェルっていう竜をボコボコにするんですか?」
「いやいや、戦わないっすよ」
「え?」
冷や水をかけられたようなサキに、リックは先ほどアッシュ達と決めた作戦を伝える。
「悔しいっすが、まだ六聖光と戦うのは危険過ぎます。連れ去られた皆を救出したら、すぐに帰還用の転移竜石で、アジトまで逃げる。あくまでも目的は、救出っす」
「なるほど……ラジャーです!」
サキは勢いよく、敬礼のポーズをとった。
やがて影竜の前方から、マカウェルの宮殿が見えてきた。
黄金色に光る外壁が、神々しさよりも不気味さを際立たせている。
「――よし! 皆一か所に集められてるみたいっす!」
仲間達の竜石の気配を感知したリックが、声を上げた。
シャーリーは転移竜石を握りしめ、竜力をコントロールし、着地に備える。
「行くわよ!」
4人を乗せた影竜が、猛スピードで宮殿へと突っ込む。
騒ぎ立てる見張りの竜達の頭上を通り過ぎ、そのまま宮殿の壁にぶつかる――というところで、パッと姿が消えた。
その数瞬後、宮殿内の部屋に、同じくパッと4人の姿が現れ、そのまま床に着地する。サキだけは上手く着地できずに、ドテッと転んだ。
「……侵入成功、よね?」
シャーリー達は部屋の中を見渡す。
その部屋はまるで大聖堂のような大広間で、天井は高くどこまでも吹き抜けている。
「お前ら……!」
アッシュが声を漏らす。
少し離れた部屋の中央に、レジスタンス6人が倒れていた。両手は縄で縛られており、体は傷だらけ。中には血まみれの者もいる。
「大丈夫ですか!?」
サキが思わず飛び出していた。
「あ、馬鹿!」
リックを先頭に、アッシュ達が急いでその後を追う。
倒れている6人以外に、周囲には誰もいない。そう、竜の1体すらも。
それが逆に、なんともキナ臭い。罠の匂いが、する。
と、次の瞬間――6人の周辺が光り出し、光った床から、太い柱のような光が、彼らを囲うように現れる。
アッシュとシャーリーは咄嗟にその場から後退した。
しかしリックとサキは6人共々その光の柱に囲まれてしまう。更に柱と柱の間に現れる、光の壁。
それは光で作られた、牢獄のようだった。
「やられた……!」
だが息つく間もなく――今度はドズンッと、激しい振動が部屋全体に広がる。
吹き抜けた部屋の遥か上方から、ティターノの巨体が降り立った衝撃であった。
遅れて、ふわりと、ルナがティターノの横に舞い降りる。
「ガッガッガ! まさか本当ニやってくるトハ。ルナ、お前ノ言う通りだっタナ」
「……人間とは、そういう、生き物。……情が、勝つ」
ティターノはルナを一瞥し、フッと肩を竦める。
アッシュとシャーリーは何も言わず、即座に臨戦態勢をとった。
「しかし今ノ出現には驚いタ。それガ噂に聞ク、転移竜力トやらか……欲しいナ」
「生憎と、もう持ち合わせは無いのよ」
今の転移で役割を終え、粉々になった転移竜石を見せるシャーリー。
「逃走用ノ竜石が、あるト思うのだガ?」
ティターノはニタニタと笑いながら言った。
「……竜どもよ。お前らを殺しに来たんだ。帰りは、歩きだよ」
アッシュが淡々とティターノに言い放つ。ティターノは、目を細めた。
「お前がレジスタンスノ主要核、アッシュ・ルヴァンか。竜大戦ニおける人間共ノ英雄……殺しがいガありそうダ」
「……そちらの女。今、降伏するなら……命までは、とらない」
ルナはシャーリーを指しそう言った。しかしティターノが怒声を上げる。
「こんな時マデふざけるなルナッ! どちらモ……殺スッ!」
ティターノの体が赤銅色に光る。
遅れてルナとアッシュの体も赤銅色に光り、シャーリーは自身の周りに大きな杖を8本、円を描くように召喚した。
この時――彼らの竜力を肌に感じたアッシュは、何か違和感を抱いた。が、次の瞬間。
「!!」
ティターノが動いた。その巨体からは想像もできないスピードでアッシュに迫り来る。
アッシュは素早く背中の斧を両手に持ち、迫り来るティターノの右巨腕を、交差させた両斧で受け止める――!
「ぐッ……!」
両斧の柄がミシミシと音を立てるように軋む。超重量。しかしこれで、片腕だ。
次いでティターノは左巨腕を曲げながら上げ、掌にある口をガパッと開く。
「竜術・
細長い蛇のような竜力が飛び出し、大口を開け、アッシュの頭を噛み砕こうとする。
アッシュは転がるように側面へ避ける。鋭い牙が、アッシュの頭を掠めた。
「竜このー! ここから出しなさーい! バカー! トカゲおとこー! ウロコー!」
光の牢にいるサキは、思いつく限りの暴言を叫び続け、ガンガンと壁を叩いている。
「……うるさいのが、いる」
シャーリーの杖から放たれた炎弾を、ひらりとかわしたルナが、サキを一瞥する。
「気になる? あんたら見た目は同じ歳くらいだし……友達になってみたら!?」
言いながらシャーリーは宙に浮かぶ杖を握り、今度は雷弾をルナに放った。
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