5
大陸トゥルエノ――又の名を、六聖光マカウェル領。
六聖光とは、光竜オーレオールの最高幹部竜にのみ与えられる称号である。
その北部に栄える町、エリアル。町の中心部には、立派な竜教の教会が建っている。
石造りの教会の中には、竜車から去った4人の中年男がいた。
「――ですので……! はい、レジスタンスの奴らが、突然襲ってきまして……!」
彼らの目の前には、2本の太い脚で立つ巨体の竜――六聖光マカウェル軍幹部竜、巨重のティターノが立っていた。
緑の鱗がひしめき、体長は2メートルを優に超え、腹は膨れ、丸太のような2本の腕を持つ。頭には3本の立派な角、胸には赤、青、紫の竜石が1つずつ煌めいている。
3つの竜石――人語も話すことのできる、上位種の竜であった。
そのティターノに圧倒されながらも、中年男達は話を続ける。
「お、俺達はこのことを早くティターノ様にお伝えしようと、はい……! へへへ」
揉み手をする男達をじっと見つめるティターノは、ゆっくりと口を開いた。
「なるホド、話ハ分かっタ」
「へ、へい」
「しかし、ダ。お前達ガ、そのレジスタンスのスパイではナイ、証拠はあるノカ?」
ティターノの顔つきが、みるみる冷酷なものへと変化していく。
「え? あ? え?」
「仕方はナイが……疑わしきニハ、死ヲ」
ティターノはその凶器とも言える右巨腕を、一人の男めがけて振り上げる。
「ひ、ひい!」
「……やめて」
ブオンッと振り下ろされた右巨腕は、男の頭上で止まった。男はペタンと尻もちをつく。
「ルナ、カ」
教会の扉から現れる少女――しかしその見た目は、人のそれとはまるで異なっていた。
鱗はなく、顔立ちこそ人間の、それも美少女と呼べる程整っているが、頭には大きな角が3本、背中には大きな翼2枚と小さな翼2枚が生えている。腰下から生えた長い尻尾は全て腰に巻き付けられていた。服で胸の竜石は隠れているが、角の数から恐らく3つ。
ティターノ同様の上位種で、現在は竜人形態のようである。
その若さにして圧倒的な実力、クールな様相で淡々と戦う姿から、ついた二つ名は冷姫。
マカウェル軍幹部竜、冷姫のルナ・フュー。
「……連れて、いって」
ルナの後ろから2体の蜥蜴竜が現れ、中年男達を再び竜車の荷へと連れ去っていく。
「あの4人に……そんな、スパイ行為なんて……無理」
「ガッガッガ! 分かっておるワ。そんなコト。しかしナア。人間の血ガ飛び散る様ヲ見んト、どうニモ落ち着かんノダ」
「……あなたの発散に、使わないで。……それは流石に――」
「可哀想、とでも言うノカ?」
「…………別に」
「ガッガッガ! とても高貴ナ竜とは思エヌ甘さよな、ルナ。お前ハ――」
「分かって、いる。全ては……光竜様の、ために。私は……非情な、女」
やれやれと言った様子で、大げさに両腕を上げてみせるティターノ。
「それで……4人の言っていた、レジスタンスの調査……する?」
ルナが淡々とした口調で尋ねる。
「……イヤ。その必要はナイ。あんなクズ共トハ違う、優秀ナ協力者がいるのデナ」
ティターノはガッガッガと、悪意に満ちた笑い声を上げた。
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