4
山岳地帯が徐々に暗くなり始めた頃、アッシュ達はすでに野営の準備を終えていた。
座るリックを中心に、半径5メートル程の薄い球状の膜――竜力の結界ができている。
「これも事象反転の力っす。ただこの結界を張ると、僕はこの場から動けないんすけど」
「そうなんですね……」
じっと座るリックを、そわそわしながら見つめるサキに、アンナが心配そうに口を開く。
「リックさんのこと、押したりしたら、駄目だよ?」
「し、しないですよそんなこと!」
その慌てふためくサキを見て、アンナは思わず「ふふ」と笑い声を漏らした。サキは頬を膨らませてアンナを小突く。
そんな2人のやり取りを見て、リックはあははと笑った。
「もうすっかり友達になれたみたいっすね、2人とも」
「え? 友達……?」
リックのその言葉に、サキの頬は赤くなり、照れ臭そうに顔を緩ませる。
「友達……えへへへ。はい……私達はもう、友達です!」
微笑ましい彼女らのやり取りを、シャーリーとアッシュもじっと見つめていた。
「生きていたら、これくらいの歳だもんね」
「……ああ、そうだな」
アッシュは珍しく、感傷に浸っていた。そして、思い出していた。
最愛の妻――闇竜ザラームと……彼女との間にできた、娘のことを。
悠久の時を竜と生き、8つもの竜石を持つ竜王、闇竜ザラーム。
竜だけでなく人をも愛するザラームは、竜人――柔らかな雰囲気を纏った美しい女性の姿でいることも多かった。
武の才により若くして人類の中心となっていたアッシュは、竜王として竜の中心となるザラームと接する機会も多く、彼は彼女のその愛の深さに、徐々に惹かれていった。
そして彼女もまた、アッシュの不器用なひたむきさに、惹かれていったのだ――。
その後竜大戦は終結し――ザラームは、アッシュとの子を授かった。
――だが。
子を出産した直後、ザラームは闇竜としての力が急激に弱まり、そこを狙われ、突如襲撃してきた光竜オーレオールとその部下達によって……ザラームは殺された。
加えて、光竜は生まれたばかりのアッシュとザラームの娘をも、攫い、奪い取った。
光竜は、闇竜の弱まるタイミングを、じっと、狡猾に、待っていたのだ。
今にして思えば――竜大戦が勃発したのも、裏で光竜が暗躍していたように思える。
自身が竜と人の頂点に立ち、支配するために。
「アッシュ……。絶望に、囚われない、で。絶望すれば、光が、消えてしまう……。無の力に……堕ちては、いけない……」
それが、ザラームの残した最期の言葉だった。
アッシュは彼女の体から8つの闇竜石を貰い受け、1つ、また1つと竜石を左腕に埋め、最愛の彼女を感じ、戦う。
いずれは8つ全ての竜石をその腕に埋め込むと誓って……。
今、娘がどうなっているかは分からない。
しかし、必ず生きている。そう信じている。
それがアッシュに残された……たった1つの、希望だった――。
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