主人公
田無 竜
「主人公」
「えー、それではこれより、主人公決めバトルロイヤルを始めたいと思います」
壇上から、彼(神)はそう言った。
「……は?」
俺だけじゃない、『みんな』がキョトンとした顔をしている。
「あのね、僕も割と色んな作品を手掛けてきたんだけどね、常々思うんだよ。『主人公に、華が無い』って。つーわけで、今回はそれなりにキャラ立てた君ら主人公候補の中で、一番こう……華がある子に主人公になってもらおうかなって。はい。思うわけです」
何………………だって?
「おい待てよ神様! お、俺は、自分が今度の作品の主人公だって聞いて、この場にやって来たんだぜ!? だ、騙してたのかよ!」
そう尋ねたのは多分、彼(神)の言う主人公候補の一人だろう。
……動くのが早いな。でも危険だ。今この状況で、その発言をしていいのは主人公か、あるいは……。
「はい。君失格」
「え? ――――うばぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
落ちた。
突然会場の床に穴が空いて、彼は落ちていった。主人公っぽくない声を上げて。
「今のはね、アプローチとしてはまあ、うん。悪くはないと思うよ? けどいの一番に主催者側に食って掛かるのは、主人公か一番最初に死ぬモブと相場は決まってる。今回は主人公を決めるバトルロイヤルをするって言ったよね? これってつまりデスゲームなの。いきなり噛みつくのは見せしめ役の仕事って、僕はそう思うんだよね」
た、確かにそうだと俺も思った。
あの一瞬で、きっと他のみんなも悩んだだろう。そして色々考えた結果、デスゲームの主人公らしく、最初は状況に付いていけず当惑することを選んだってっわけだ。
そう――――――バトルロイヤルは、既に始まってる……!
「ではまずは第一試験。『自己PR』と行こうじゃないか。じゃあまずはそこの……十一番!」
「!?」
十一番は絶望していた。
どこにでもいそうな普通の高校生って感じの奴だが、だからこそ彼は主人公かモブかの瀬戸際にいる。
自らを『普通』と称して良いのは、主人公とモブだけだ。
「え、えっと、その……俺は普通の高校生です!」
「はい失格」
「うぎゃあああああああああああああああああああああああ!」
電気だ。
ビリビリ痺れさせられて、彼はその場に倒れ込んだ。モブみてぇな死に様だな。
……しかし、今のは酷くないか?
だって、一番最初の試験で一番最初に出番がやって来るのは、凄腕の実力を持った奴か、あっさり落とされるモブかのいずれかだ。
試験の説明、描写を円滑に進めるためにはそれが一番良い。
基本、主人公はトリになることが多い。まあ第一試験ならば『最初』以外なら何でもいいだろうが、『最初』だけは駄目だ。それは主人公の役目じゃない。
こ、この男(神)……何がバトルロイヤルだ。気に入らないと思ったキャラを、その場で消してるだけじゃねぇか。
自分のことを神様だとでも思ってんのか? いやそうだけど。作者様の意向には逆らえない。それが俺達キャラクターの宿命だ。
「……さて。次は……」
みんなビビッて委縮してしまっている。
この流れはまずい。まだ『安全圏』には来ていない。あと二、三人は見せしめ役になる可能性が高いぞ。
頼む! 俺の二十六番は指名しないでくれ!
「二十六番」
来ちゃったァァァ! ど、どうする!? どうしよう!? 自己PRっつったって、俺はただのどこにでもいる異世界転生もののありふれた主人公キャラだぞ!?
しかも、作者であるコイツは異世界ものが苦手なんだ……!
な、何か面白いことを言って気を引かないと、簡単に落とされる……!
「…………」
……だ、駄目だぁ。何も思い付かない。
落ちる。これは落ちる。間違いない。ああ……短い人生をありがとうござました。せめて死ぬときは、異世界で死にたかったです。いや、むしろトラックに轢かれて死にたかったかな。
「……君、合格で」
「は?」
「第二次試験に進んでくださーい」
「え、は、はぁ……」
……え?
何で?
何で合格できたの? 意味わからん。
「ちょ、ちょっと待てよ! 合格基準は何なんだよ!」
ッッッ!? おい、待て! それはまずいぞ四十番!
「はい。君は失格」
「へ?」
「……分かってないね。所詮はモブか。あのさ、自己PRしろって言われて、そのまま言われた通りに自己PRするなんて普通過ぎるじゃないか。だから沈黙を貫いて、ずっと戸惑いを消せずにいた彼は合格にした。あ、もちちろんだけど同じやり方は二度通用しないよ。読者が飽きるからね」
つ、ツイてる……! 何て豪運だ! つーかこんなの、早めに呼ばれた奴が有利じゃねぇか!
「じゃ、じゃあ何で俺は不合格で……」
「? だって、解説を求めるのはモブの役目じゃないか。君は明らかに、物語を順序良く進めるための犠牲になってしまっていた……。だから失格。バイバイ」
「ぎゃああああああああああああああああああ」
も、燃やされた……。
酷過ぎんだろ。主人公になれなかっただけでよぉ。
と、とにかく二次試験だ。次は一体何を……?
*
「選ばれた主人公候補のエリート諸君。二次試験はバトルだよ、バトル」
「何だと!?」
おいおい。この期に及んでそんな、モブみたいな反応は止めておけよ。
死にたいのか? 残りの一次試験はカットされたけど、次は水責めか何かだぜ多分。
「どしたの?」
「いやいやいやいや! 俺は推理ものの主人公だぞ!? 戦えねぇよ!」
「? 戦えるでしょ。探偵は肉弾戦も強いって、あるある」
「知らねえよ!」
「じゃあ失格」
「ほぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
おぉ……体中の穴から植物が生えてきた。
芸術品が出来ちまったなぁ。
「……では対戦カードを発表していきます。えー……一番は二十六番とで」
『一番』……番号だけでもう主人公になれる運命にありそうな奴だ。
何て卑怯な話。一体どんな奴だ。
「あ。よ、よろしくお願いしますぅ……」
……女?
…………女だって!?
あ、あの野郎……なんて真似しやがる!
主人公が女に手を掛けられるか! いやまあ、最近は男女平等な方が好まれることもあるけれど! でも、この人普通に可愛いし、良い子そうだ。た、戦えるわけがねぇ……。
俺自身がフェミニストだからとかじゃなく、可愛くて性格も良い女の子の敵は、同じ女か最低な下種野郎の二択だ。この時点で俺は……下種野郎になるしか選択の余地がない……。
「試合開始」
クソ……ッ! ど、どう戦えばいい!? 気の弱そうなこの女の子を……どう主人公っぽく倒せばいいんだ!
「あの……棄権しますぅ」
「へ?」
「……私は、戦いが嫌いです。誰かと傷つけあうなんて、野蛮な真似はしたくありません……。傷つけあうくらいなら、主人公なんて立場はいりません。……この後も、頑張ってくださいね? 二十六番さん」
良い子過ぎるッ!
これはもう……この子が主人公で良くないか!? 最近は極端に振り切れた主人公が結構好まれるし、悪人方面じゃなくて正義方面なら万人受けも良い。
……そうだな。俺はもうここまででいい。主人公になるのは君だ。一番さん!
「はい。では一番失格で、二十六番合格」
ズドォォォォォォォォォォン
オイゴラァ!
一番さんは、無残にも突如として天から降ってきた巨大な鉄の塊によって、押し潰された。
血も涙もねぇ。そんなだから売れねぇんだよ、アンタの作品。
*
「それでは、三次試験に移ります。三次試験は……うーん……どうしよう。考えてねぇや」
だからッ! そんなだから売れねぇんだよ、アンタの作品はッ!
「よし今決めた。もう残ってるのも十人くらいだし、そろそろ作品の方向性決めて、それに沿ってる人だけ残そう」
まだ決めてなかったのかよ!
と、というかこれはまずいぞ。コイツ、極端に異世界転生を避けてる偏屈作者だ。頭使う推理物も無いだろうが、それより異世界転生はもっと無い。
俺はコイツの作品を全部知っているが、異世界転生ものは一つたりとも存在しない。
基本的に、主人公が無知の状態から始まるのが嫌なのかもしれないな。
主人公に感情移入して気持ちよくなりたいタイプなんだ、コイツは。
「そうだなぁ……バトルものは飽きたし、止めるか」
二次試験の意味は!? 一番さんを返せよッ!
「僕の描く主人公……いつもちょっと異常者なんだよね。うん。今回はモブよりの主人公が良いな。特徴も少なめで」
だから今までの試験の意味は!? モブっぽいからって何人消したよ既にさぁ!
「恋愛ものが良いなぁ」
それは前回やったでしょ神様ぁ! だから読者に、この作者は恋愛厨だのカプ厨だの言われるんだよ!
毎回毎回恋愛要素入れないと話作れねぇしさぁ!
発想が貧困なんだよ! もっと外出ろ! 知識を付けろ色々と!
「……よし。異世界恋愛ものにするか」
一生付いて行くぜ、作者様。
*
「では、最終試験に移ります。といっても……候補はもう二人しか残っていませんが」
……緊張感が場を包み込んでいる。
俺と同じ様に三次試験の『選別』をクリアしたのは、十番の男だ。
異世界転生系主人公の俺と違い、彼は異世界系主人公。
要するに、出身が違うのだ。
俺は現実の日本人ベースの見た目だが、彼は銀髪に浅葱鼠色の瞳で見るからに異世界人って感じだ。……いや、ロシア人とも言えそうだ。
「……神様、俺は思うんだ」
「何だ急に」
十番は突然口を開いた。さっきまでずっと無口だったのだが、描写が無いから伝わってないだろう。クールキャラなんだ。彼は。
「こんな形で主人公を決めて、果たしてそれで、面白い話が作れるのか? 死んでいった主人公候補たちが主人公になった方が、面白い話を作れたんじゃないか?」
「……それは……」
「もう……止めにしないか? こんなことしなくたって、アンタは面白い話を作れるはずだ。なんてったって……この俺の作者なんだから、な」
「……」
「俺は棄権するよ。この辺でお暇させていただく。あとは――」
「はいじゃあ失格」
「うびゃびゃびゃびゃびゃ」
何も響かなかったらしい。
十番は雷に打たれて黒焦げになった。
さっきも電撃処刑やらなかった? ネタ切れかおい。
「おめでとう。主人公は君だ」
「いや……もういいよ。つまらないアンタの作品の主人公になるくらいなら、ここで処刑されて死んだ方が良い。俺も他の奴みたいに殺しちゃってくれ」
「……残念だが、君の望み通りにはならない。いや……『ならなかった』」
「な……何!? ま、まさか、もうプロットが出来上がってるのか!? 行き当たりばったりでしかストーリーを作れないはずのアンタが!?」
「いや、今回も行き当たりばったりのストーリーだったよ」
「……だった?」
「と、いうわけで。今回の主人公は君でした。話はまあ、つまらないかもしれないけど……取り敢えず形になって良かったぁ」
「……ま、待てよ。まさかこれ、お前の脳内会議で終わらせたわけじゃなく……」
「ああそうさ。既に今の今までのやり取りは……全て、文章化しているッ!」
……どうやら俺は、このつまらない作品の主人公にされちまっていたようだ。
やはり俺みたいな一キャラクターは、作者様に逆らえない。
せめて、この作品が受けることを期待したいが……。
いや、無理だろ。絶対。
「完ッ!」
だからそういうところがつまらないんだよクソ作者がぁぁ!
主人公 田無 竜 @numaou0195
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます