45:泉へ向かう間のひととき
翌日、マオたちはヴァリアを救うために泉へと向かう。
向かうメンバーはマオ、レイレイ、エナ。そして、ドラシア以外で地理に詳しい者として、ユクトも同行することとなる。
ユクトが先導し、三人は泉への道中を歩く。
森の中という代わり映えのない景色が続くが、彼の案内は正確だった。
木漏れ日が地面に差し込み、鳥のさえずりが耳に心地よく響く。
時折、小動物たちが顔を覗かせては、すぐに茂みの中に隠れていった。
昨日はヴァリアのことを一日中考えてしまっていたマオ。
体を動かすことで、前に進んだという実感を得た彼女は、ようやく他のことに気が回るようになっていた。
そんな中で、気になったのはやはりレイレイのことだった。
「精霊魔法が使えるようになったんだよね、レイレイ」
マオが話しかける。
レイレイの横顔を見つめながら、マオは彼女の表情の変化を見逃さないようにしている。
「うん!」
頷くレイレイ。
ようやく自分の力が分かった。
そして、みんなを助けることができる。
彼女の表情は明るくなっていた。
柔らかな日差しを浴びて、レイレイの髪がきらきらと輝いている。
「ただ、エナちゃんに迷惑かけちゃったけど……」
レイレイが少し申し訳なさそうに言う。
彼女の瞳に、一瞬悲しみの色が浮かぶ。
「気にする必要ありませんわ。レイレイさんが今までに感じてたもどかしさに比べれば、なんてことありませんでしてよ」
エナが優しく言葉をかける。
彼女の声は温かく、レイレイを包み込むように響く。
「ありがとう、エナちゃん……」
気にしなくていい。エナの言葉にレイレイは救われる。
そして、より一層、これから役に立ちたいという思いが強くなる。
レイレイの瞳に、新たな決意の炎が灯る。
レイレイは先陣を切って歩いているユクトにも労いの言葉をかける。
「ユクト君もありがとうね。私の力を覚醒させてくれて」
ユクトは振り返り、尻尾を嬉しそうに振る。
彼の動きは軽快で、まるで森の精霊のようだ。
「そう言われると照れるのです。ボクはただ、ししょーに従ってただけですので……」
ユクトの声は少し恥ずかしそうに震えている。
彼の頬が、ほんのり赤く染まる。
「ふふっ、ユクト君が強くなかったら、私も覚醒できなかったと思うよ?」
レイレイの言葉に、ユクトは顔を赤らめる。
彼の耳がぴくぴくと動き、動揺を隠せない様子だ。
変な雰囲気を変えるため、ユクトは別の話題を出すことにした。
「そ、そう言えば、エナ殿はどうしてボクをワルギツネって言ってたのです?」
「あら? ドラシアから依頼を受けたましたのよ? この辺りに悪さをするキツネ型の獣人がいるって」
「なっ!?」
ユクトは驚きの声を上げる。
彼の尻尾がぴんと立ち、目が丸くなる。
「だから、とっさに言葉に出てしまって……」
エナが説明する。
彼女の表情は少し申し訳なさそうだ。
「し、ししょー……」
涙目になるユクト。
彼の瞳に、裏切られたような悲しみが浮かぶ。
「おー、よしよし! マオお姉さんが頭を撫でてあげよう!」
マオはユクトに近づき、彼の頭を撫でる。
彼の毛並みは柔らかく、手触りが心地よい。
「うおー!もふもふだあ!」
マオは歓喜の声を上げる。
「ま、まおーはあまり近づかないでほしいのです!」
ユクトは慌てて身をよける。
彼の動作は素早く、まるで風に乗って踊っているかのようだ。
「え!? 何で!!」
マオが驚く。
彼女の表情は、まるで子供のように無邪気だ。
「ボクの一族が保管してた古い文献に、まおーのことが書いてあったのです。まおーは世界を混乱に陥れた悪いヤツだと!」
「私はマオ! 魔王じゃないんだってば!」
「うー……でも……」
ユクトは信じがたい様子だ。
彼の尻尾がぐるぐると回り、思考の混乱を表している。
そんな二人を見て、レイレイが口を開く。
「ユクト君。マオちゃんは魔王じゃないよ。私が保証するから、マオちゃんと仲良くしてくれると、私は嬉しいな」
レイレイの声は優しく、ユクトの心に直接響くようだ。
彼女の瞳に、真摯な想いが宿っている。
「分かったのです。まおー、頭をナデナデする権利をやるです」
ユクトは折れた。
彼の表情は、まだ少し不安そうだが、レイレイを信じる決意が見て取れる。
「レイレイの言葉はすぐに聞くんだ!」
マオがツッコミを入れる。
彼女の声は、森の静けさを破って響き渡る。
「もちろんです! 精霊魔法を扱える人間! それだけで、ボクはすごく尊敬するです!」
ユクトは語る。彼の瞳に、尊敬の念が輝いている。
「ボクの一族と人間は、古来は関係があったのです。特に精霊魔法を使える人間とは蜜月の仲で、お互いに利益を与えていたです」
「でも、今はそんな話聞きませんわね」
エナが言う。
彼女の表情は、少し寂しそうだ。
「そうです。魔王が討伐されると、精霊魔法を扱う人間が少なくなり、いつしか獣人との関わりも絶ってしまったのです」
「その言い方だと、人間が一方的に縁を切っちゃったみたいな感じだね」
レイレイが指摘する。彼女の眉が、疑問を浮かべるように上がる。
「あっ! 違うのですレイレイ殿! 平和な世の中になって、お互いがお互いを必要としなくなった。少しずつ関係が離れただけなのです!」
ユクトが慌てて訂正する。
彼の声は、必死さを帯びている。
「そっか。良かったぁ」
レイレイは安堵の表情を浮かべる。
彼女の笑顔は、まるで太陽のように眩しい。
マオは少し考え込む。
彼女の瞳に、深い思慮の色が浮かぶ。
「魔王ってさ……良くも悪くも、世界の一部だったってことなんだね」
「まあ、魔物を統べる存在であれば、影響は大きいと思いますわ。それが亡くなった場合も……」
エナが同意する。彼女の表情は、少し複雑だ。
「うん。でも、だからって蘇っていいわけじゃない……よね」
マオは自問するように呟く。
彼女の声は、森の静寂に吸い込まれていく。
「もちろん。でも私は、マオちゃんが消えちゃうかもしれないってことが……何より嫌かな」
レイレイが寄り添う。彼女の瞳に、優しさと強さが同居している。
「レイレイ……」
「あら? 私だって同じ気持ちでしてよ。マオさんとは……長いお付き合いをしたいって思ってますもの」
エナも微笑む。
彼女の表情は、まるで母親のように温かい。
「エナっち……!」
マオはレイレイとエナに抱きつく。
彼女の動作は力強く、友情の深さを物語っている。
「やっぱり私、二人と会えて良かったよ!」
マオの声は、森全体に響き渡る。
まるで、自然そのものが彼女の喜びに呼応しているかのようだ。
友情を確かめながら、マオたちは泉へと足を進める。
道中、四人の会話は弾み、絆はより深まっていく。
木々の間を抜ける風は、彼らの笑い声を運び、森全体を明るく彩っていった。
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