28:古の村

 資料室に、三人の歓喜の声が響き渡る。

 古い書物たちも、彼女たちの喜びを祝福しているかのようだ。


 先生は、そんな三人にさらなる提案をする。


「この古文書だが……まだ続きがあってな」


 ページをめくる先生。そこには、一枚のイラストと共に文字が記されていた。

 村の中心にそびえ立つ大樹。

 その樹を取り囲むように、質素な木造りの家々が建ち並ぶ。

 屋根よりも高い大樹が家々を守り、見守ってきたのだろう。

 素朴な作りの窓からは、暖かな明かりが漏れている。


(聖樹村? どこだろう……)


 文字の内容を読み解くマオ。

 聞き覚えのない土地の名だった。


「この村について調べてみたんだが、どうやら精霊魔法は、俺たちが普通に使える通常魔法より強力らしい」


 先生の言葉に、エナが眉をひそめる。


「でも、レイレイさんの魔法は、わたくしたちのと変わりありませんでしたわ」


「きっとレイレイが無意識のうちに、魔法の威力を制御してたんだろうね」


 マオが推測を述べる。


 レイレイの優しさが、彼女自身を守っていたのだ。

 もし彼女が、制御なく強大な精霊魔法を使っていたら、大惨事になっていたかもしれない。

 最悪の場合、彼女は大国の研究材料にされていたかもしれないのだ。


「ああ。先生もそう思う。だが、この部分に興味深い記述があるんだ。精霊魔法を長年研究している村があるらしい」


 先生の言葉に、マオの瞳が輝く。


「先生、私たちそこに行きたい!」


 即座に提案するマオ。

 レイレイはもちろん、エナも賛同の意を示す。


「分かってる。だから、昨日のうちに外出許可証を受理してきたよ」


 先生の言葉に、マオは飛び上がって喜ぶ。


「さっすが先生! 私、一生ついていきます!」


 試験の時もそうだったが、先生はいつも生徒のことを考えて行動してくれる。

 その姿勢に、マオは心から敬意を抱いていた。


「行きたいのは山々ですけど……」


 エナが手を上げて、疑問を呈する。


「この古文書、いつの時代のものか分かりませんが、果たして現代にもその村は存在しますの?」


「先生もそこが気がかりでな。だが、こうして記録に残っている以上、行ってみる価値はあると思うんだ」


 涙を拭いて、レイレイも会話に参加する。


「でも先生、もし行っても意味がない場所だったら、外出許可はどうやって取れたんですか?」


「……実は、真っ直ぐその村に向かうわけじゃないんだ」


 先生の言葉に、三人は首を傾げる。


「どういうこと?」


 マオが尋ねる。


「ヴァリアの学費を、学園で工面しているという話は?」


 三人は頷く。


「話が早いなお前たち。なら隠す必要もないか。実は、ヴァリアの仕事を兼ねて許可を貰ったんだ」


 その言葉に、マオの目が輝く。


「――じゃあ! 先輩のお手伝いも出来るってこと!?」


「まあ……マオにとっては嬉しい話かもな」


 先生は苦笑しながら答える。


「私たちにとってもですよ、先生!」


 レイレイも笑顔で同意する。


「……まあ、ちょっと気にはなりますが、ヴァリアさんの仕事に付き合えばいいのでしょう?」


 エナも、ヴァリアを手伝うことに異論はないようだ。


「正直、君たち三人だけだと心配だが、ヴァリアがいるなら先生も安心だよ」


 先生はホッと胸を撫で下ろす。


「あの……先生」


 レイレイが、恐縮そうに口を開く。


「ん? どうしたレイレイ」


「本当にありがとうございます……私のために、こんなにしてくださって……」


 レイレイの瞳が、再び潤み始める。


「気にしなくていいよ。これが先生の仕事なんだから」


 先生は優しく微笑み、レイレイの頭を撫でる。


「……はい!」


 レイレイは、先生に感謝の気持ちを込めて頷いた。


 こうして、精霊魔法の謎を解き明かすための旅の準備が整った。

 マオ、レイレイ、エナの三人は、胸を躍らせながら冒険の日を心待ちにしている。


 そしてヴァリアを手伝えることを、心から嬉しく思っているのだった。


 教室を出る三人。

 笑顔で語り合いながら、廊下を歩いていく。


 彼女たちの冒険は、まだ始まったばかり。

 これから先、どんな出会いと発見が待っているのだろうか。


 期待と不安が入り混じる胸を抱えながら、三人は未知なる世界へと足を踏み出すのだった。


 太陽の光が、雲間から差し込んでいる。

 まるで、三人の前途を祝福しているかのように。


 彼女たちの絆が、この先の困難を乗り越える原動力になることを、誰もが信じて疑わない。

 新たな一歩を、新たな世界を、三人は力強く踏み出していくのだ。

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