27:レイレイの才能

 本日の授業も終わり、放課後の時間が訪れた。

 学生にとって、この時間はもう一つの本分。

 勉強に励んだり、友人と語らったりと、それぞれが思い思いに過ごす大切な時間だ。


 マオとレイレイ、そして今日はエナも加わり、三人で放課後を過ごすことになった。

 彼女たちの目的は、いつものベンチでのお喋りだ。


 しかし、今日も少し違った。

 三人が教室を出ようとした時、昨日と同じように先生が呼びかけてきたのだ。


「そこのトリオ。ちょっといいか?」


 先生の声が、教室に響き渡る。


「何ですか?」


 やはり、真っ先に反応するのはレイレイだった。


 連日の呼び出しに、彼女なりの不満を感じているのは確かだ。

 しかし、真面目な性格から、あからさまな嫌悪は示さない。


 一方、マオはまたしても先生の呼びかけを無視して教室から出ていく。


「――おーいマオ!! 先生の言葉を聞いてくれないのかー!」


 大きな声で呼びかける先生。

 そのボリュームにマオは耳を塞ぎながら、不満げに教室に戻ってくる


「えぇー!? 昨日もお願い聞いたじゃん!! 学生の放課後は忙しいんだよー」


「なぁ……君はこの学園の生徒だよな?」


「うん」


「先生のお願いは一つしか聞いてくれんのかい?」


「え? 昨日のやつが先生の一生のお願いじゃなかったの?」


「違うなぁ」


「むー……」


 そう言われ、マオは頬を膨らませる。

 だが、先生の呼び出しにはヴァリア先輩に関することがあるかもしれない。

 その可能性を考え、マオはしぶしぶと先生の話を聞くことにした。


「で、先生。私たちに何のご用ですの?」


 エナが尋ねる。


「場所を変えたいんだ。先生について来てくれるかな?」


「ん? ここじゃダメなの?」


 マオの問いに、先生は頷く。

 そして三人を先導し、昨日マオとレイレイが訪れた資料室へと向かった。


 資料室に一歩足を踏み入れると、インクと紙の香りが鼻をくすぐる。

 普段とは違う雰囲気に、三人は思わず背筋を伸ばした。

 この特別な空間に、自然と畏敬の念が湧いてくるのだ。


 先生が散らかしたのか、中央のテーブルには、いくつかの本が開かれ、無造作に置かれている。

 その中から、一冊の古文書に向かって、先生はランプの光を差し込ませた。


「……これを見てくれ」


 覗き込む三人。

 だが、彼女たちの表情は困惑に満ちていた。


「……何て書いてあるんですの、これ」


 エナが率先して口を開く。


「昔の人の文字なんだろうけど、読めないよ」


 レイレイも尋ねる。


「んもー、先生ったら。私たち底辺クラスなんだから、こんな難しい文字読めるわけないじゃん♪」


 マオはわざと肩をすくめてこの状況を面白がっている。


 先生は慌てて目を擦った。


「いや、そうだったな……悪い」


「謝られても、ちょっと複雑な気分ですわね……」


 レイレイは、先生の瞼の下に薄っすらと広がる隈を見つめる。


(先生、もしかして寝不足……?)


「さて、本題に入ろう。実はこの古文書に、レイレイの魔法についての記述があったんだ」


 先生の言葉に、マオの目に光が宿る。


「――それ、本当?」


 当の本人であるレイレイよりも、マオは身を乗り出して興味を示した。


 真面目に話を聞く気になったマオに安堵しながら、先生は頷きながら言葉を紡ぐ。


「ああ。この古文書によると、レイレイの魔法は『精霊魔法』の可能性が高いらしい」


「精霊魔法……?」


 三人が同時に呟く。

 聞き慣れない言葉に、彼女たちは首を傾げた。


「ああ。精霊魔法は近くに触媒があるか、特定の周期でしか使えない魔法なんだ」


 ページをめくりながら、先生は解説する。


 三人は先生の言葉を信じるしかない。

 だがマオは、友人のために先生の翻訳が正しいか、魔王の記憶を使って確かめることにした。


 先生を信用していないわけではない。

 だが、友人を助けるための手がかりがこの本に記載されているのなら、先生の翻訳が間違っていて、一度希望を持ったレイレイががっかりするような事態は避けたい。


(……うん。内容が読める。先生の言ってることで間違いない)


 友人を助けるため、マオは迷わず魔王の力を使う。

 そこに後悔はない。


「先生はずっと考えてたんだ。レイレイの魔法が使える時と使えない時の違いを……」


「……あっ!」


 鋭い直感で、レイレイはある法則に気づいた。

 炎の魔法が使えたゴーレムとの戦いは炎の曜日。

 使えなかったハーピーとの戦いは、炎の曜日ではなかったのだ。


「その通りだ、レイレイ。キミは確かに魔法を使える。ただ、条件が必要なんだ」


 先生の言葉に、レイレイの瞳が潤み始める。


「……ねぇ、先生。それ、本当に信じていいんですよね?」


 震える声で尋ねるレイレイ。

 先生はそっと彼女の肩に手を置き、優しく微笑む。


「ああ。信じていい。君は魔法が使えるんだ、レイレイ」


「私、もうみんなの足手まといにならずに済むんですね……!」


 レイレイの声は、喜びと安堵に震えている。


「レイレイ。私も保証する。先生の言ってること、正しいよ。この本に書かれたこと……ちゃんと翻訳できてるから」


 真剣な表情で、レイレイに伝えるマオ。


 エナはそれで、マオが魔王の力を使ったことを悟った。


「マオさん……」


「マオちゃん……私……魔法が使えるって……!」


 レイレイは、マオの胸に飛び込むように抱きつく。

 喜びの涙が、とめどなく溢れている。


 その姿を見て、マオも嬉しそうに微笑む。


「うん。良かったね、レイレイ!」


 マオも笑顔で彼女を抱きしめ返す。


「これでレイレイさんも堂々と魔法が使えますわね」


 エナも心から喜ぶ。

 レイレイの表情からは、重荷が取れたような明るさが溢れている。


「私、もっと頑張ります。二人に負けないように、魔法の特訓をするんだから!」


 その宣言に、マオとエナが力強く頷く。


「うん、一緒に頑張ろう!」


「ええ。わたくしも精進しなきゃ……ですわね」


 先生は微笑ましく三人を見つめる。

 底辺クラスだろうと、彼女たちの絆は本物だ。

 きっとこれからも、三人は支え合って成長していくのだろう。


 眩しい未来を感じさせる光景だった。

 資料室に、三人の歓喜の声が響き渡る。


 三人の絆は、新たな一歩を踏み出した。

 これからの彼女たちの成長が、先生は楽しみでならない。

 まるで我が子を見守るように、先生は温かな眼差しを三人に送るのだった。

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