21:絆が闇を切り裂いて

 マオが放った光に包まれたヴァリア。

 その温かな輝きに包まれながら、彼女は過去の記憶を辿っていく。


 名門の勇者の家に生まれた末っ子のヴァリア。

 代々受け継がれてきた使命と、親からの大きな期待。

 立派な勇者になるため、幼い彼女は必死に努力を重ねた。


 剣の稽古に魔法の修練。

 日々鍛錬を積み、着実に力をつけていくヴァリア。

 だが、兄弟たちの非凡な才能には、どうしても及ばない。


「ヴァリア、なぜお前だけ上達しないのだ」


「もっと鍛錬を積まねば、勇者の名に恥じる」


 厳しい言葉を浴びせられ、歯を食いしばるヴァリア。

 さらなる努力を重ねるが、兄弟との差は開くばかりだった。


「落ちこぼれだ」


「あれは失敗作だよ」


 周囲のささやきと冷たい視線。

 孤立を深めるヴァリアの心に、焦りと悔しさが募っていく。


「このままでは……勇者になれない……」


 ついに、彼女は家出を決意する。

 誰にも頼らず、自分の力だけで勇者になると誓って。


 だが、その道のりは険しかった。

 幾度の挫折に、彼女は打ちのめされる。


「私には……才能がないのか……」


 それでも剣を握り続け、血反吐を吐きながら立ち上がるヴァリア。

 しかし、現実は非情だった。


 力不足を実感し、家に戻った彼女。

 親からの提案は、実力主義の学園への入学だった。


「そこで実力を示し続ければ、お前を認めてやる」


 最後の望みにすがり、ヴァリアは学園で必死に努力を重ねる。

 そんな気を緩められない日々の中で、彼女はベンチに寂しく佇む一人の少女と出会った。


「どうしたんだい?」


 少女は目を輝かせ、はにかみながら答える。


「あ、あの! ここ初めてで……。あ、私、マオです!」


 純粋な笑顔に、ヴァリアの心が揺さぶられる。


「私はヴァリア。君の先輩だ。何かあったら、いつでも頼ってくれ」


「本当ですか? ありがとうございます、ヴァリア先輩!」


 マオの笑顔が、ヴァリアの心に灯をともした。

 彼女は初めて、自分を必要としてくれる存在に出会ったのだ。


 荒んだ心を癒やすマオの笑顔と、純粋な尊敬の眼差し。

 本来、底辺クラスの生徒に構う理由などない。

 だがヴァリアは、マオのことを常に気にかけていた。


 それは彼女が魔王の生まれ変わりだからではない。

 彼女が『マオ』だったからだ。

 その魅力に、ヴァリアは惹かれずにはいられなかった。

 彼女との絆に、生きる喜びを感じるようになっていた。


 そこで、記憶が闇に飲み込まれる。

 ベルカナンの不気味な笑い声と共に、美しい思い出が染まっていく。


「そうだ……私にはマオは必要ない。私は一人で……」


 闇に沈んでいくヴァリア。

 だが、そこにマオの声が響いた。


「先輩! ほら、手を伸ばして!」


 その言葉が、闇を切り裂く。

 眩い輝きの中に、笑顔のマオが手を差し伸べている。


「マオ……!」


 言われるまま、ヴァリアは手を伸ばす。

 マオの温かな手が、しっかりと彼女を掴んでいた。


「マオ……どうして、こんなにも……」


 ヴァリアの呟き。

 その瞳から、次第に闇の色が消えていく。


「私のために、こんなに……」


「当たり前だよ。先輩は、私の大切な人だから」


 包み込んでいた光が消える。

 そこには地面に横たわるヴァリアと、彼女を抱きしめるマオの姿があった。


「よかった! 先輩、戻ってきてくれて」


「ああ……私こそ、よかった。君に会えて……」


 ヴァリアは涙を流しながら、マオを強く抱きしめ返す。

 かけがえのない絆を確かめ合うように。


「先輩、ずっと一人で頑張ってきたんだね」


「ああ。でも、もういいんだ。私にはもう、君がいる」


「うん。私、先輩の味方だからね」


「マオ、ありがとう」


 二人は額を合わせ、静かに微笑み合う。

 長い闇から解き放たれたヴァリアの心に、再び光が差し込んでいた。


「さあ、みんなが待ってる。行こう、マオ」


「うん! エナっちとレイレイのところへ!」


 立ち上がる二人。

 ヴァリアは剣を握りしめ、マオの隣に立つ。


「先輩、これからは一緒だよ」


「ああ。共に手を取り合って、進んでいこう」


 二人は微笑み合い、仲間のもとへと駆け出していった。


 苦難を乗り越えて深まった絆。

 それが、彼女たちの最大の武器となる。


 もう、ヴァリアの心に迷いはない。

 困難に直面しようとも、彼女はそれをはじき飛ばす。

 いつだって、マオと共にある。

 仲間と共に、前を向いて進んでいく。


 それが、彼女が見つけた「本当の強さ」なのだから。

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