18:信頼と絆の証
「んっ……」
意識を取り戻すマオ。
彼女が最初に感じたのは、柔らかな感触の枕だった。
目を開け、周囲を見回す。
視界に飛び込んできたのは、まるで聖母のような優しい表情のエナだった。
「エナっち……おはよう」
目の前で斬られたはずの友が、生きて微笑んでいる。
マオの表情も自然と緩み、ほっとした様子でエナに挨拶した。
「ねぼすけさんですわね、マオさんは」
いつもの軽口に、マオは心地よさを覚える。
そう、大切な友人が無事なのだ。それが何よりも嬉しかった。
エナと並んで、マオも岩壁に背中を預けて座った。
伝えなければならないことがある。覚悟を決めて、口を開く。
「……ごめん、エナっち」
「何がですの?」
「魔王のこと。隠してたから」
視線を伏せるマオ。罪悪感に押しつぶされそうだった。
それでも、真実を告白しなければならない。
「……ある夢を見てからなの。魔王の記憶が蘇るようになったんだ」
「夢? 記憶?」
「うん。魔王と勇者が戦う夢なんだけど……」
こくりと頷くマオ。過去を思い出すように、ゆっくりと語り始める。
「誰かを助けたい、絶対に勝ちたい……そう思った瞬間、魔王の知識がひらめいて。まるで『正解』が分かっちゃうみたいに」
「ヴァリアさんが言うには、それがマオさんが魔王の生まれ変わりだから、でしたわね」
「うん……だから、エナっちと一緒に戦ったあの日の私はズルしてたんだ。私の実力じゃない。全部、過去の記憶のおかげで……」
マオの言葉に、エナは真剣な眼差しを向ける。
「――それがなんだと言いますの?」
「……へ?」
「あなたは魔王じゃない。マオさんです。たまたま他の人にない、ちょっとラッキーな能力があるだけのこと。今の時代に魔王は不要ですし、邪魔なだけですわ」
「じゃ、邪魔って……!」
あっけらかんと魔王の存在を否定するエナに、マオは思わず苦笑する。
それでも、エナの言葉は真摯だ。マオへの信頼が、ひしひしと伝わってくる。
「使える力なら、使えばいいんですのよ。だってその力で、あの日は命を救われたんですもの。それに……」
エナはそっとマオの手を取った。
握り返すマオ。温もりが、心の奥まで染み渡っていく。
「こうして新しい絆だって生まれたんですのよ? 悪いことばかりじゃありませんわ。その力は」
「エナっち……えへへ、ありがとう……」
晴れやかな笑顔を見せるマオ。
重荷を下ろしたような、解放感に満ちた表情だった。
エナの言葉が、マオの心に勇気を灯した。
魔王だろうが何だろうが、今ここにいるのは紛れもないマオ自身なのだ。
仲間と共に歩む彼女を、過去に縛る理由などない。
そう、魔王の力も、マオの個性の一部に過ぎないのだから。
「私、もう怖くない。エナっちがいてくれるから」
「ええ。これからもずっと、味方ですわ」
二人は笑顔で手を取り合う。
心の底から湧き上がる安堵と喜び。
それは確かな絆の証だった。
「さ、そろそろ動きましょうか。まだ先は長いですわよ」
「うん! レイレイを助けに行こう!」
立ち上がる二人。
これから待ち受ける困難を予感しながらも、もう恐れることはない。
信じ合える仲間がいる。一緒なら、どんな壁も乗り越えられるはずだ。
「頼りにしてるよ、相棒!」
「ええ。こちらこそ、マオさん」
清々しい朝日を浴びて、二人は歩き始める。
新たな一歩を踏み出すための、勇気と希望に満ちた一歩を。
マオの胸に宿った魔王の力。
それは彼女の、エナとの絆の証でもあった。
強き信頼を胸に、マオとエナは助けを求めて進んでいく。
遥か遠くに、仲間との再会の日々が待っているのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます