第8話 心変わりはない

「……………」

避難所に逃げた男の前に変身形態の平井が現れる。右手には化け物の頭から上顎まで、左手には下顎から足までを持っていた。

平井は男の前に来ると化け物の死体を地面に捨てる。

男は震えながら平井に尋ねる。

「………なんだ…?」

「変身形態が解除されないの……殺意がおさまらないってこと…」

「はぁ……?」

「……………お願いです…。」

「なに」

男は怯えていたが何故か余裕があるように見せているような気がした。

「……………………」


平井は男の頭を握りつぶした。


パンデモニウムパレード

EP8 心変わりはない


平井と桑原が車内で話し合う。

「本当に殺すつもりはなかったんです。ただ変身してる時は殺意や破壊衝動で頭がいっぱいになるので…被害を最小限にとどめたかったんです」

「うーん…。わかるけどさ、そうじゃなくて。いや、うーん…。過ぎたことはしょうがないけど、次からそういうことが起こってもやめといて。化け物のまま研究所来て。そうしたら誘発実験もしないで済む。面倒ごとは俺も嫌いだからさ」

「はぃ……ごめんなさい…」

「あはは。うん。コレから君は今住んでいるマンションから引っ越して研究所の地下室に住んでもらう。まあ設備とかはあんま良くないけどこれでも頑張った方なんだ」

「ありがとうございます。」

「あと警備員……いや同居人?として同い年の子が一緒に住むからよろしく」

「えっ?」

平井は困惑する。

「仲良くしてあげて」

「……はぃ…」

困惑しているが、とりあえず返事をした。


平井は桑原に研究所の地下室に案内される。

「ここが新居…」

「ありがとうございます!……」

「…うん、荷物とかは後で送るから。じゃ」

「はい…ありがとうございます」

桑原は去って行った。

平井は新居の硬いベッドに座り、ため息をつく。


ガチャ


ドアが開く。そこには少女が一人立っていた。

黄色く短髪で、耳あたりにエイの尾のような形をしたアクセサリーをつけたヘアスタイルをしていて、服装はグレー一色の長いTシャツワンピースである。濃いピンク色の瞳はカラコンだと思われる。

「お!やっときた!」

少女はそう言いながら平井の元に駆け寄り、隣に座る。

「私、壱ノ瀬(イチノセ)茅(カヤ)、よろしく!」

「平井澪です……よろしく」

「あははは」

壱ノ瀬は平井をみて笑う。

「………………?」

「全然思ってたのと違う!こんなおとなしそうな子でも人殺すんだね〜」

「うーん…」

「化け物に変身出来るって聞いたから私もっと怖え子かと思ってた。ちょっと安心」

「…………」

平井は化け物としての自分を知っているのに、第一印象だけでこんなにも警戒を解いても良いのかと、彼女を心配する。

「ねえねえ人殺したのってどんな感じだった?感触とか」

平井は驚く。同居生活を続ける上で、この話はタブーだろうと勝手に思っていたからである。しかし、謎の安心感があった。

壱ノ瀬の質問に平井は記憶を掘り起こし、なんとなくで感想を述べた。

「えー…なんだろう、化け物になった時って握力が強くなるから、まだ焼いてない餃子を握りつぶした感じ…。指と指の隙間から肉がはみ出て、液体で手が濡れてちょっと硬いところがある。みたいな」

「へー面白い!」

「怖くないの?」

「怖くないよ。私前から興味あったんだよね。ていうかワクワクした。でっかい化け物が出てきた時、世界が変わるっていうか…変えられるっていうか」

光を失ったような平井の瞳とは反対に、壱ノ瀬の瞳はきらきらと輝いていた。全てを見透かしているような、逆に純粋で素直で他人事な感じで自分の置かれている状況がわかってないような。不気味に輝いていた。

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