第7話 ナメんな

たった2分の時間が、いつまでも終わらない気がした。

「……………」


パンデモニウムパレード

EP7 ナメんな


2分後


化け物は時刻通り駅に姿を現した。真っ白な体に小人のような見た目で、ギョロッと見開いた目、耳まで裂けた口をしていた。薄っぺらい足をペタペタと鳴らし、ものすごいスピードで平井の元に迫ってくる。

思ったより小さな体に、平井は油断していた。化け物が近くまで来ると、平井は化け物の顔を蹴り上げようとした。

その瞬間、化け物の大きな口がネチャッと音を立てて開き、平井の右の太ももに噛みついた。

「ぅギタっッ……」

平井の全身から汗が噴き出し、一瞬で上着の存在を気持ち悪くした。

平井は歯を食いしばりながら声にならない声でうめき、化け物を足から振り払おうとする。

「ハァッ…はぁッ」

平井は痛みを堪えながら必死で自分に言い聞かせる。早く変身しろ、こんなに痛いんだから殺したくなるだろ、と。

数秒後、化け物が平井の足から離れ、Uターンしてまた市街地に戻って行った。平井も走って後を追う。


市街地にはまだ、避難していない人が大勢いた。逃げ惑う人々に、化け物は声をあげる。

「ウゴクナ…!」

平井だけが足を止める。

「……………ウゴクナ…」

平井も化け物に向かって走り出す。

「ウゴクナ……?」

平井は化け物の顔に蹴りを入れる。化け物はバランスを崩し、後ろ向きに倒れ込む。

「ンン…??……ウゴクナッッテンダロヨ…。」

「………………」

平井は変身しなくても殺せるんじゃないかと思った。

その瞬間、再び化け物は平井の右足に噛みついた。先ほど噛みついた場所と全く同じ場所だった。

「ぅ」

血液なのか化け物の唾液なのかわからないが、液体が平井のズボンの中に流れ込む。

「ベェー…」

化け物は平井の足から離れる。


「ウゴクナってイってんジャン」

「はぁ…はぁ…はぁ…」

平井は足の力の入れ方を間違えその場に倒れ込む。

「ンンー……ハァーーーーーー」

化け物は口から水色の煙を吐き、男を一人バラバラにする。それを見た人々は叫び声をあげる。

「ウゴクナって!」

7人が立ち止まる。動いた六人の人間は化け物によってバラバラにされた。

「ウシ。喋っても駄メね。」

化け物の周りは人の声がなくなり、避難警告がうるさくなる。

「ウシ。オ前らの誰かでこの白い髪の毛をコロセ。」

「……………」

七人が平井を睨む。

一人の男が地面に落ちた石を拾い、ゆっくりと平井の方に歩き出す。

「まッ!待って!ください…。私を殺したらあの化け物を殺せなくなります。……変身すれば簡単に殺せる。」

「……変身?…………よくわからんけど……じゃあ早く変身してくれ」

男は足を止める。

「はぃ……。」

平井は右足を引きずりながら立ち上がる。

「殺す…殺す…殺す……」

「ンンー」

平井は足に力を入れ、痛みを思い出した。

「殺さなきゃ……殺せる……殺す…」

平井はボソボソ呟く。

「無理ダッテ無理。」

男が叫ぶ。

「はやく変身?しろよ!」

「うるさい…」

「ぁあ!?」

「…………………………」


「んでだよ…なんで変身できない?………」

平井は足を止める。

化け物は笑いながら平井に言う。

「ナなんで変身できないか教えてやろうカ?オ前自身が命の危機を感じてないからだよ。前の兄貴の時は図体のデカさもあって、人間を殺した数も多かった。俺は体も小さいしオ前に2回攻撃したが死ぬほどの傷じゃない。むしろただの痛みなら殺すより死んだ方がマシっていう感情が湧きやすい。お前は煙にも耐性があるし、本能的にオ前は俺のことをナメてンダよ。」

「…………」

平井は納得したと同時に、ああ面倒だ。と思った。

「でもな、いつまでもグダグダしてると〜」

化け物は水色の煙を吐き、また一人バラバラにした。

「コウなる!」

「…………………」

「ンンーいや、コレは意味なかったか」

平井は化け物をずっと睨み続けている。

「オ前、逃げたら?」


平井は後退りする。

それを見た男が後ろで声をあげる。

「おい待てよ!お前しか殺せないんじゃないのか?」

「……………はい」

「なんでもいいからはやくしてくれ。はやく俺たちを助けろよ……」

「……………………」

平井は目を見開き男を見つめる。

男は困惑する。

「??」

「……………」

「なんだよマジで……早く助けてくれよ。早く…」

「……………うるさい。…」

「………こっちも必死なんだよ」

「…………私だって痛いのに…逃げたいのに」

「チッ……自分だけが辛いと思ってんじゃねえ!お前が助けるって言ったんじゃねぇか!」

他の人間も呼応する。

「はやく変身しろ!」

「早く助けろよ」

「お願い!マジで助けろ!」

化け物は笑いを堪えるのに必死だった。

平井は男の方に足を進める。

「………………助けるなんて言ってない」


殺意


平井の肉体が変形する。

「死ね死ね死ね死ねばいい!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねばいい!!!!あああああああああああああああああぁぁっかぁかぁああああああああ!!!!」

「うわあああああああああああ!!?」

「ンン?ウワアアアアアアアアアアアアァァァ!?」

平井、男、化け物の順に悲鳴をあげる。

「ヤベッ!!」

化け物は一目散に逃げ出す。

平井は発狂しながら化け物を追う。

「あうあああああああうあああああああああああ!」

「ママママママ待て!オ前がこれ以上追ってきたら五人殺す!1秒毎に一人殺す!いいのか?いいんか?」

「ああああああああ!!!」

平井は化け物を上から拳で押し潰す。

「グフォヒんっ!」

化け物はうつ伏せに倒れ込む。

平井は化け物の髪の毛を持ち、全身を持ち上げる。

化け物はかすれた声で懇願する。

「……助けテ…シニタクナイ…」

平井は化け物の下の歯を掴み、そこから化け物の口を引き裂いた。

水色の液体が平井の顔面目掛けて吹き出し、真っ赤だった平井の視界は一気に水色一色になった。

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