第4話 平井澪

嫌いなものから逃げ切れない。だから、気まずい。


シーンとした地下室の中で一人の男の声が響く。

「化け物が澪を探してる…?」

西中から隊員達に連絡が入った。松村と平井は地下室の中で震え上がった。

「なんd…あ、切れた」

少しの間沈黙が続く。

「………大丈夫…ここにいる隊員で戦えば化け物にだって勝てる。それに、まだ数人駆けつけてくれるみたいだし」

「うん…ありがとう」

平井は引きつった顔でぎこちない返事をする。


パンデモニウムパレード

EP4 平井澪


「ここの道を曲がって、……確かこの下だ」

西中と化け物は、平井達がいる地下室のすぐ近くまできていた。

西中は震えながら化け物に質問する。

「えっと、いくつか質問していいか?」

「ダメ。どいて、ジャマ」

西中は黙って道を開けた。化け物が地下室に入った瞬間逃げようと思った。

「……………」

その瞬間、西中の足元に水色の煙が漂った。

「      」

西中は言葉も残せないまま肉片になった。



「…………」

地下室の扉と、壁が崩れた。それと共に、奴は姿を現した。

合図はない。自衛隊員は銃を構える。

ひとつ、銃声が聞こえる。他の隊員も狙いを定め一斉に撃ち始めた。

「…………」

平井はその状況と響く銃声音に息を呑んだ。


しかしダメージはなかった。


隊員たちの汗が滴る。

化け物から表情は読み取れないがギラギラと目を光らせて挑発に見える感情を現した。

「平井澪ってェどれ?ここいる?」

さっきと違う銃声が聞こえた。平井を差し出しても、自身も殺されることは隊員たちは分かっていた。

隊員達はまた引き金を引く。平井は耳を抑える。


水色の煙が漂った。


隊員の首が飛んだ。


指の関節までちぎれ、細切れになった。


臓器が吹き飛んだ。


一人死んだ。


五人死んだ。


十三人死んだ。


平井は目をつぶった。


松村が死んだ。



「………………」

平井はうずくまったまま震えていた。

化け物は平井を見て言った。

「やっぱ煙に耐性があるなァ、殴り殺さないといけないなー」

「なんで…ですか?」

平井はうつむいたまま化け物に質問する。

「だから、煙が効かんから」

「……なんで私を殺すんですか…ていうかなんで煙?が……?」

「お前の義母さんが人間じゃないってのはもう勘付いてるよな?で、お前はその義母さんが作った人工的化け物ってこと」

「…………」

「人間じゃないのに人工はおかしいかナナァ…」

「じゃっ!じゃあ私貴方達の仲間にしてください!」

「うん、それがママからもらった俺の生まれた役割なんだけどね。正直俺お前仲間にしたくないんダわ。ここの人間達を見て思った。数が多いだけで簡単に殺せる。時間さえかけりゃ簡単だ。これからお前ら人間にすげかわって俺たち『リダ』がこの星の天下をとるからな」

話が通じない。というより、理にかなっているのかもわからないが自分には殺されるという選択しか無いと平井は思った。


平井澪、15歳。

死が一種の救済ということはとうに知っていた。


化け物は首を回転させながらヴロロロロロという音を鳴らした。

「てユうーか、お前にこんなこと話しても意味ないか。これからぶっ殺すんだシ」

平井は一度ため息をついたあと、小さな声で懇願した。

「できるだけ、優しく。痛くないように殺してください。一発で……」

───言葉ではそう言った。

化け物は嘲笑うように話す。

「それはお前次第だろ。俺らみたいに体が固かったら何発か殴んなきゃいけない。ま、お前ママが巨大化したヴァしょの近くにいて全然ケガしてナイって時点で硬いのはほぼ確定だけど。」

「………………」

平井はじっと化け物を睨んだ。

自分の人生の目的はあと死を受け入れるだけ。親や義母、松村ももういない。だから死に責任はない。それに受験や将来のこととか考えなくていいなら、楽じゃないか。

───意識ではそう考えた。

「ジャァあ、これから殴り殺すね。あんまり悲鳴はあげんでネ」

化け物は腕を振り上げる。

平井は死を受け入れた。


───だが、肉体がそれを否定した


『殺意』


が、心の底から湧き上がった。


化け物の拳が平井の頭に振り下ろされる。血が頭から吹き出し、平井は歯を思い切り食いしばる。

その時、平井の手の甲などの服から出ている部分から肉が生え始め、体全体を覆う。そして徐々に肉体が変化していき、人間とは違う化け物の形になった。


丸い頭にはサイコロの目のように四つ並んだ目の窪みからは、水色の煙が吹き出しており、ツノを連想させる。その下には細い鼻と歯茎を剥き出しにした口が顔の面積の殆どを覆い尽くしている。成人男性の様に肉付きのよくなった胸部、胴体と反対に両腕は細く、肉が黒い殻の様な物に覆われている。また肩は尖り、首部分も太く大きくなっている。両脚は肉で出来たボンタンの様な物を身につけており、その先から細く薄い足をのぞかせている。


「───────────────────ュッッッッ」


平井は喉の奥から鈴のような音を出して発狂した。

平井は化け物の拳を高速で解き中指と人差し指を握り、そのまま肘まで引き裂いた。

「はぁ!?ッ」

化け物は生まれて初めて恐怖した。細い足で後ろ方向にジャンプし、平井から距離を取った。

「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲフェエゲエ………」

「……………………」

平井は化け物をじっと睨む。

「お願い……。殺させて。私が死なないためにはお前を殺すしかないの。」

平井の声は少し低くなっていた。

「殺させて殺させて殺させて殺させて…死んで死んで死んで死んで!」

平井は高速で貧乏ゆすりをする。

化け物は一心不乱で目からビームを乱射した。

「ヴロロロロロロロロロロロオオオンロンロンロンロンロンロロロオロ!!!!!」

平井は少し当たりながら化け物へ間合いを詰める。

「フヴンッ!」

化け物はビームを打つのをやめ、地下室から逃げようとした。


その瞬間、平井の腕が化け物の体を貫いた。

「ゲ」

化け物がそれを認識したと同時に、平井の手に握られていた臓器がペシャッと地面に落ちる。

平井はそこから化け物の腹をこじ開け、骨をばきばきに折り、臓器を引っ張り出す。銃も効かなかったあの体を、豆腐のように扱える。

「やめヤメロ…!ギャメロ!ェ」

化け物は必死に抵抗するが、神経が切られもう足が動かなくなっていた。

化け物が地面に倒れ込み、こじ開けた穴から平井が顔を出す。そこから化け物の頭の前に移動する。

「ギャルララララヴゥンロロ……」

平井は化け物の頭を両手で掴み、足を肩のあたりにつける。

「アアアアアアアアアァァアアッァァアッァァァアアアアアアアアアガヤアアアアアアギャアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎!!!‼︎‼︎‼︎!!ンンッ」

化け物が叫ぶ。

平井はグッと力を入れ、化け物の頭をぶち抜いた。


化け物の頭からは血とは違う水色の液体がジャバジャバと流れ出した。化け物の頭を地面に放ると平井は膝から脱力し、立ち膝のような姿勢になった。


覆っていた肉に亀裂が入り、徐々に平井の肉が剥がれていく。そのまま逆再生のように戻っていった。

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