第3話 長男 


「…………」

血溜まりとなった老人をみて男達は震え上がった。悲鳴は上げず、静かに全力で走った。老人のそばで働いていた西中も、自分の命のことばかり考えていた。

化け物の元からバラバラに散っていった人間達を見つめながら、化け物は静かに喉を鳴らす。その様は恐怖している人間にとってはまるでどの人間から殺そうか選別しているように見えた。


ヴロロロロロロロ………



自衛隊基地にいる者たちに連絡が入り、辺りは騒然となった。化け物はゆっくりと動き出し、基地に向かって歩いていく。

とりあえず、基地にいる民間住民や松村などの若い隊員は少し離れた場所にある戦時中使っていた地下室に避難するそうだ。

戦闘員は、化け物に銃が有効かなどを調べるため基地内で一旦様子見をする。


西中は騒がしい周りを眺めながら、一人ベンチに座りため息をつく。目の前で起きた一瞬の殺人を本能が受け入れようとしないのだ。

西中は下の歯の後ろ辺りから溢れてくる唾液を舌ですくいあげ飲んだ。いつも知らず知らずのうちに飲んでいる唾も、この時は不味く感じた。死に対し現実感が増してきたとでもいうのだろうか。


パンデモニウムパレード

EP3 長男


ス…


パカ


ス…


キン


カチチ…


チッ


ス…


スー…


フー…


西中はベンチの上で一服し、そのまま地面にタバコを口から飛ばした。その後、空に向かって煙を吐いた。

次の瞬間、西中の足元にあの銃を持っていた男の一人の首が転がってきた。西中は妙に落ち着き、タバコも吸いすぎると幻覚が見えるようになるんだっけ……なんてことを考えていた。西中はもう一度空に向かって煙を吐き、そのまま少しの時間静止していた。


ヴロロロロロロロ……


西中の周りを巨大な影が覆った。

「……………っ」

西中は叫ぼうとしたが、逆に息を吸って声を殺してしまった。

「ヴロロロロロロロ…ヴィン……ヴー……」

化け物は水色の目をチカチカさせながら西中を見つめる。

「ヴ…来ちゃった。」

西中は大きく目を見開いた。化け物が日本語を喋ったのに対し、寒気を感じたのだ。

「喋れたのか……?」

少しずつ息を吐きながら、震えた声で化け物に問いかける。

「ヴlヴ…今……知ったんだ。というか…覚えた。」

「…………。」

西中は唾を飲み込んだ。

「そうか…喋れるんなら……良い。こちらとしても好都合だ。質問していいか?。まずお前らは何だ?人を殺してなにがしたい?」

化け物はこの質問を、平然と無視する。

「俺ァは平井澪っていう人間を探している。どこにいる?」

「………。やっぱ平井澪は人間じゃないのか?お前らの仲間か?」

「地下室か?まだ基地か?」

「化け物か?」

「それかまた別の場所?」

「…………。先に俺の質問に答えてくれ。頼む」

「ヴ……あぁ、平井澪は人間じゃない。けど俺らともちょっと違うんだ。条件を満たすことで人間を超える。」

「条件?」

化け物は一度頷く。

「条件は、アイツが殺意を持った時だ。」


「殺意…?」

「まぁ感情の高ぶりだな。それでヤツの体は変化する。」

「………変化?。よくわからないが、わかった。平井さんのいる地下室に案内する」

西中は本当によくわかっていなかった。自身の命のことで頭がいっぱいで、化け物の言葉に従うことしかできなかった。

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