第2話 共通点

それから一週間後。平井はカーテンを貫通して窓から差し込む日の光によって起こされる。


パンデモニウムパレード

EP2 共通点


午前8時。被災者の救出をしている松村ら含む自衛隊員をよそに、自衛隊基地のある一室で化け物の情報に関する会議が行われていた。

「我々はこの二日間で化け物を覆っている膜について少し実験をしました。まず、あの膜は煙のようなものが液体になり、大きくて硬いシャボン玉のようになっています。で、その煙は化け物の体の所々に空いている小さな穴から出ているものです。おそらくなんらかの臓器で作り出しているのでしょう。次に、膜の作用。これは皆さん知っているとは思いますが、あの膜に触れたものをだいたい3㎜ほどに破壊し、散らせる作用があります。そのため、検出は不可能です。ですが、3㎜以下の物体ならあの膜を突破できることがわかりました。なので、ここにはまだありませんが小さな弾丸を使えば化け物に攻撃が可能ということです。しかし、スピードも早くなければいけません。中から放出されている煙に触れるともっとバラバラになってしまうのでうまく調整しなければなりません。そのもっとバラバラになったものの大きさは今後計ります。あとは…わかっていることとしてあの膜は地下にも及び化け物を囲っているので下からの攻撃も不可能、赤外線も防御されるので化け物の内部構造を知ることも不可能。………相手が我々に情報を与えないようにしているようです。とりあえず、今後の事態に備えての用意を海外にも呼びかけて、今後の行動を見守っていきましょう。………以上です。」

長々と話終わると、白衣を着た老人は長いため息をつく。

「ありがとうございました……。3㎜以下の弾丸については今本部から運んでいる最中です。ところであの化け物との関連性がある少女の研究については今日行う予定ですか?」

「そうですね。早速今から取り掛かっていきます」

その後もほぼ二人の老人の話し合いで、会議は終わった。


3日後


午前8時。また会議が行われていた。

「えーと、平井澪はあの後も何回か検査をしましたが、やはり何も知らない様子でした。レントゲンなども撮ってみましたが異常はなかったです。」

今日は白衣の老人ではなく、先日平井に質問した男が喋った。が、彼が喋ったのはこの一回で、その後もまた老人達の話し合いで会議は終わってしまった。3㎜以下の弾丸に対応する銃については、威力は弱いが5つほど用意出来たとのことで、明日化け物への攻撃実験を開始するとの事だった。


次の日


「………では、行くぞ。攻撃準備。」

化け物の前に、わずか5㎝程の銃を持った5人の男が勇み立つ。後ろにいる白衣の老人の一声で、彼らは銃を構える。


パァン……


静まり返ったそこには、銃声が一回鳴り響く。最初に撃ったのは一番右の男だった。銃弾は見事に幕を通り抜け、化け物の巨体に当たる。

「ビョフュン……」という奇妙な音を立て体の中に入っていったが、特に何も起こらない。あたりはまた静まり返る。

「……………。」

一番右の男は銃を下ろし、一歩下がる。同時にその隣の男が一歩前に出る。

「次は顔を狙って撃て。反応がなければ今日は終わりだ。また研究を続けよう」

老人が言うと、男は銃を構える。


結果は同じだった。歯に見えるような部分に当たったが、音も全く同じで何も変わらなかった。

「人類の兵器では敵わんかァ……。戻るぞ。」

老人はそういうと、基地の方にスタスタと戻って行った。


その時だった。


化け物は大きく口を開け、初めて声を上げた。

「ヴィンガジャヴァルデッドヴァヴィイイィィン‼︎!」

化け物はその巨体を膜の中で大きく揺らしている。周りの人が怯えた声を発しながら逃げる中、老人は振り返り不思議そうな目で化け物を見つめる。


化け物が体を揺らしていくうち、腹部が段々大きくなっていく。

「やはりいつかは起こると思っていたが……こんなスピードで行われるとは………。」

老人は化け物の方に向かって足を動かす。

「センセェ!!逃げてください!」

人々が叫ぶも、その声は老人には届かない。老人は目を輝かせながらどんどん化け物の方に向かっていく。

会議の中で喋らなかった男、西中が老人に向かって大声で叫ぶ。

「何やってんすかセンセェ!死にますよ!」

それに向かって、老人は満面の笑みを浮かべて振り返る。

「わはははははははは!!西中クン!我々は今スゴイ場面に立ち会っているんだ!平井澪は彼女の育ての親がヤったあと巨大化したと言った……!だからこの反応はおそらく!西中クン!コレはバケモンの妊娠だァ!!ぁははははははは!」

西中は予想外の反応に、声も出なかった。

「クフフふふふふふ……。」

老人はポケットに入っていたカメラで化け物の写真を笑いながら撮っている。


「ゥゥゥゥゥ…アヴァアアィアバアアアアアアグッアァアアヴァアアアァアァァァ!!!!!」

化け物の腹はやがて管のような形になり、先がバリアの外に出てくる。

あまり遠くに逃げていなかった銃を持った男の一人が管に向かって銃を構えるが、老人によって阻止される。

「アホが………。」

管の先からは、謎の水色の液体が漏れたあと薄紫色の塊が中から出てくる。

「来るぞ!……来るぞぉ……!」

塊はみるみる形が変わっていき、やがてまた違う化け物の形になった。薄い台形円柱型の頭には複数の目が規則的に並んでおり、首部分に泥のようなマフラー、上半身は筋骨隆々な成人男性のようなつくりだが下半身は深緑と緑色の縞々模様がついた、虫のようになっている。背中には熱い肉でできたマントのような物を羽織っており、そこにはまばらに虫の足のような物が生えている。


「……………っふ」

老人は少しの間呆気に取られたあと、また笑いながら写真を撮る。

「わはっははははははははかぁははは!」

銃を持った男が叫ぶ。

「先生、離れてくださいよ!逃げて!」

「だから……テメエだけ逃げリャぁいいだろ。」

老人は声のトーンを落とし男を睨む。

「この歳になってくるとなァ…。自分の命より感情を大事にしちまうんだよ。家族もいねぇからなぁ。」

「……………」

銃を持った男は呆れて何も言えなかった。老人の足の遅さではもう逃げられるはずもなく、気が狂ったんだろう。と男は思った。数日前に初めて会って関係も浅いので、自分の命を優先し、男は走った。

「出産までの流れが早いな。」

そんなことも気にせず、男は化け物を見つめていた。

「ヴロ…ロロロロロロロ」

子供と思われる化け物が、老人を見つめて不思議な鳴き声を発する。

子供の化け物は、老人の方を見るような動作をするとその5メートルほどある巨体を、老人の方に向かって動かす。老人は少し後退りしながら、両手を横に広げる。

「最後の最後に残ったのは歳をとった経験豊富な俺より科学者としての俺だった。


俺の理性より好奇心が生き残った!!!!」


ドチァ


化け物は、老人を何の躊躇いもなく踏み潰した。

地面を踏んで歩くのと同じように。道に生えている草を踏んでも気にしない、何も感じない。そんな感覚だった。

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