彼女の声は白と黒

たか式

狭間

「ここは、どこだろう……」

周りは何もない、真っ白な空間。

俺は、そこに一人佇んでいた。

何故ここにいるのか?

何があったのか?

何も覚えていない。

周りの異様な光景に不安と恐怖を感じ、胸の鼓動が高まる。

「気分が悪いな……」

体が重い。すぐにでも横になりたい気分だった。

「とりあえず歩こう……」

ここに居続けることに意味はない。

俺はあてもなく、先を進むことにした。


もうどれくらい歩いただろう。

辺りの風景は一切変わる様子を見せない。

歩いている間にも、体の体調はどんどん悪化していくのが分かった。

「うっ……」

精神的にも身体的にもくたびれた俺は、その場でひざまづく。

「休憩しよう……」

その場で体を横にした。

気づかぬ間に、俺はそのまま眠りについていた。


(……君!)

「……ん?」

どこかで声が聞こえる。

女の娘の声だ。

どこか懐かしさを感じる声。

ずっと聞いていたいとも思えるほどの、俺のよく知るその透き通った声。

俺はそれを聞くために、真っ暗な闇の空間で、耳をすませる。

(こん……で……んて嫌だよ……)

声は途切れ途切れにしか聞こえてこないが、彼女はとても辛そうな、悲しそうな様子で、俺に何かを訴えかけているのが分かった。

(ま……答え聞い……のに……)

答え?何のことだろう。

(……君!……君……私、ずっ……待っ……から……)

「はぁ……はぁ……」

ずっと聞いていたいのに、その声を聞くたびに、身体が苦しくなってくる気がした。

この声を聞くのをやめれば、楽になれるのだろうか。

(ま……一緒に喋……いよ!君の……が聞……いよ!)

彼女が必死に叫ぶ。

「あ……う……」

俺は彼女に答えようとするが、声が出ない。

(また……君に会い……いよ!)

激しい頭痛。大量の汗。身体が尋常じゃなく重く感じる。

「俺も……会いたい……!!」

俺は悲鳴を上げた身体に鞭を入れ、なんとか口を動かした。

(……君!)

俺の言葉が届いたのか、彼女は急に驚いたような口調で俺の名を叫ぶ。

(私……ここだよ!ここ……るよ!!)

俺の手に温もりが感じられた。まるで誰かに握られているような感覚だった。

「俺も……」


俺がそれに答えようとした瞬間、不意に後ろから声が聞こえた気がした。

(私は、ここに居るよ。)

それは、しっかりと聞こえた、女の娘の無機質な声だった。

「あ……」

その声を聞くと、先程までの苦しみが、嘘のようになくなっていく気がした。

「……」

もう、彼女の声は聞こえない。

俺はゆっくりと、ゆっくりと、深い闇に落ちていく……


(死んじゃダメだよ!)

「うわああああああ!!」

瞬間、俺は目を覚ました。

そこには見覚えのある無限に広がった白い空間。

「寝ていたのか……」

俺は体を起こした。

「……?」

体を起こして辺りを見回すと、何も無かった筈の白い空間の先に、何か光っているものが見えた。

「あそこに行けばいいのか……?」

俺はその光を目指して、歩き出した。

先程までの苦しみが嘘のように消えていた。

「あの光を目指せば……」

気づくと、俺は無意識に走り出していた。

早くしないと、今見えている光が消えてしまう……そんな気がしたからだ。

「早く……早く……!」

その光に近づけば近づく程、俺の身体は不自然にも楽になっていた。

あの光が、この無機質な世界から解き放ってくれるんだ。

(……ダメ……)

何か聞こえた気がした。

(行……ち……ダメ……)

自分を苦しめる声。

(行……で……)

嫌、気のせいだ。きっと気のせいだろう。

(……んじゃダ……)

何も聞こえない。

(…………)

謎の声は消え、俺は走り続ける。

「うおおおお!!」

光が目の前になる。

俺は最後の力を振り絞り、その光を掴んだ。

「あ……」

その瞬間、俺の意識が遠のいていく気がした。


その光は、黒に染まっていた。

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彼女の声は白と黒 たか式 @kyousenshi

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