高校、後日談
ことは、高校一年生の秋、音楽の授業で起こった。
「皆さんに、何かしらの演奏をして発表してもらいます」
音楽の授業中と自主的に練習し、一人ひとりが何かしらの発表(グループも可)というミッションが降ってきた。
小学校から一緒の友達に「何か一緒にやらない?」と誘われたが、お互いにピアノが弾けるので、「別々にピアノを弾いたほうがいいんじゃない?」とやんわり断った。
他の楽器でもよかったが、普段の音楽の授業がある日の保管に困るため、また、歌よりはピアノの方が聴き映えするだろうということで、ピアノにしようかな、と考えた。
以前、啖呵を切ったことがあり、頼みづらかったが、背に腹は変えられないため、元ピアノの先生の母親にそのことを話し、私でも練習すれば弾ける曲を見繕ってもらうことを頼んだ。確か時間制限もあったため、それも伝えた。
母親は、二曲ほど曲を見繕ってくれて、私がそのうち一曲を選んだ。
「退屈じゃないし、聴き映えするから」
「わかる〜」
母親の軽いノリで今まで大変なことになっていたのだが、まあそれは良い。
期間はそれなりに長かったため、冬休みも使ってコツコツと練習したら、弾けるようになった。
本番の日は、多少自分の中では失敗したな、と思うところもあったが、概ねうまく弾けた。
三週間ほどにわたる、音楽の授業での発表の後、「一番印象に残った演奏」といったようなアンケートが行われた。
次の週に集計結果が発表された。
「えー、一位は、郷野さん!」
私は目を丸くした。そこまでピアノはめちゃくちゃ弾けるというわけではないが、強力なライバルがいなかったクラスのメンバーと、選曲のおかげである。
そして、バレンタインデーの日に音楽の年配の男性の先生から板チョコをもらって終了した。
その後は、大学に進学したり就職したりしたが、ピアノが弾ける、ということはほとんど言っていない。就職に至っては、就活中も趣味や自己PRにピアノは出てこず、職場の人たちの誰にも言わずに過ごしている。
これまでピアノが弾けることによって起こされた騒動に巻き込まれた私なりの、トラウマでもあり、危機回避でもある。
黒鍵と、白鍵と、黒歴史と 郷野すみれ @satono_sumire
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