小学五年生

「じゃあ、卒業式の在校生の歌の伴奏、よろしくね」

「はい」


私の学年では、オーディションなく、伴奏は私に頼むことが通例になっていた。ちなみに、秋の文化祭での学年の発表の伴奏もやった気がする。


卒業式の在校生の歌の伴奏を練習してみると、案外簡単で、余裕ぶっこいていた。


卒業式が迫ってきたある日、私が所属していた合唱部の顧問である、違う学年の先生が歌の練習の指導役としてやってきた。私の学年の先生と仲が良いから頼まれたらしい。


歌についてなんと言われていたかは私は関係ないので覚えていないが、その先生は私の方を振り返ってこう言った。


「っていうか、なんでそんな簡単な伴奏弾いてるの? 本番のやつは違うよ」


道理で簡単すぎると思ったわけだ。


私は思わず、学年の先生たちをじーっと見つめた。たしか、目を逸らされた。


解説すると、私が最初に渡された楽譜の左上には「簡易伴奏」と書かれていた。後から渡された「本物」の楽譜には「本伴奏」と書かれていた。


多分、簡易伴奏は、小学生の普通の子が少し練習すれば、音楽の授業に弾けるもので、本伴奏はピアノの得意な先生が弾くことを目的としているのだろう。


卒業式を何週間か前にして、猛特訓の始まりであった。


小学三年生のデジャヴである。


そんなこんなで、卒業式本番はなんとか無事に終えた。


簡易伴奏と本伴奏の違いに気づくのがもっと遅かったら大変なことになっていたに違いない。


そこは、合唱部の先生と、その先生を呼んだ学年の先生に感謝している。

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