第6話 こじれ女になりたくないと思った時にはすでになっている
「いらっしゃいませー。あっ、千夏さん!!」
「お疲れさま。相変わらず1人だけどいい?」
「もちろん〜!いつもの席にどうぞ!」
「いつものってなんかやだな。飲んだくれみたい。」
「いーじゃないですか!特等席なんだから。」
私を「千夏さん」と呼ぶ彼女。彼女の名前も千夏だと言う。まぁ、証明書を見たわけでもないから偽名かも…いや、それは意地の悪い考えか。この子と出会って2ヶ月が経った。
溢れる笑顔が、私が来て嬉しいとわかりやすく伝えてくる。実のところ、それが嬉しいのは認めるのだけど…、彼女の働くこの店で、他の従業員に何か思われそうなのが嫌で、ここへはあまり来ていない。
「お仕事、お疲れさまでした。何をお飲みになりますか?」
「ありがとう。じゃ、レモンサワーを。」
「塩辛は?」
「あとで頼むかな?大根サラダ下さい。」
「少々お待ち下さい♪」
おーおー。嬉しそうだね。こっちが恥ずかしくなるよ。
…………私達はまだ、付き合ってない。デートは3回した。デートと言うか、お互いの都合が合うときに会って、一緒にご飯を食べるくらいだけど。毎日、メッセージや電話で一度は連絡を取っている。なぜ付き合わないか。それは、、タイミングがわからないから。
私はどうも、強気で来られないと、自分から行けないタイプだったようで…。
「お待たせしましたー。レモンサワーと、お通しです!」
「ありがとう。今日、閉店まで?」
「はい。稼がないと家賃払えませんからね〜。」
「偉い偉い。来月からだっけ?」
そう。この子は就活中だった。ついに仕事が決まって、ここでバイトをするのもあと僅からしい。バイトしかしていない年下の子という印象も私を足踏みさせていたけど、その点は解消されるようだ。
「はい。まかないが食べられなくなるのが残念でならない〜。」
「はは。まぁ、痩せ細ったら困るから、よほどひもじかったら…」
うちにおいで…と言いかけてやめた。付き合ってないのは私が保留にしているせいだ。それなのに家に呼ぶのはどうかと思って。
「大丈夫ですよゔ。奢れなくても割り勘するくらいは余裕です!」
「や、そういうことを言いたかったわけでは、、」
これ以上、追及しないでって思っていたら、ちょうど他のお客様が入ってきた。慌てて仕事に戻る千夏ちゃん。後ろ姿を少し見送ると、残念そうに見えないようにスマホを取り出して「一人でも大丈夫だから」感を出した。
「私って、こんなに可愛くないタイプだったっけ??」
呟いてみて、自分のことを分析しながらサラダをつまみにサワーを飲んだ。今まで、どういう人を好きになったっけ?元カノは自信家で頼れるタイプ、、だったけど、最終的にはモラハラ女。そうだ、私は今の自分がどういう人といると心地が良いのかなんてわからなくなっているんだ。
正直、あの子といるのはとても楽しいし、この関係がなくなるのは多分、めちゃくちゃ嫌だ。だけど、付き合ってうまくいくのかな。というより、自分がうまくやれるのかが心配なのかもしれない。
「私は、、あの子に頼られたいのか、、甘えたいのか、、。」
年齢がかなり下だから、私がしっかりしていないといけないような先入観が拭えない。でもそれを言ったら元カノと同じことをしてしまうんじゃ??
「それは・・・恐ろしい・・・。」
恋愛に怖気づいた女。それが私。
「うわ。それはいかんな。」
少し、進展してみるか??あまり良い思考の流れとは思えないけれど、私は焦りからか、彼女にもう少し「その気がある」ことを匂わせることにした。
「あ、ちーちゃん。」
「え!はいっ!!」
ちょっと可愛い呼び方にして近くを通った彼女を呼んだ。
「おすすめの日本酒と、塩辛ください。あと、空いてる日ある?宅飲みしようよ。」
「えっ!」
「上司にもらった日本酒が美味しそうなんだよね。一緒に飲まない?」
「え、絶対行きます!やった!」
「ほら、仕事しな?」
「あ、はい!!」
この後、私はネットでちょっと良さそうな日本酒を注文した。
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