第5話 深いコリに指圧される感じ
「ねぇ、千夏さんって呼びにくくないの?」
「最初はさすがに慣れませんでしたけど、今は慣れましたよ?」
「そう…。私、なんて呼ぼうかな??」
「ずっと店員さんとか君じゃ、淋しいですもんね。私はどんな呼び方でも呼ばれたら走って千夏さんの元へ行きますけど。」
あれから…、出会って二日目にして口説かれてから。ん?言葉にしてみると、そう変な話じゃないか。ナンパなんて出会ってすぐ口説くわけだし。
そう、あれから私達は、数日の間はメッセージのやり取りをしていた。次第に電話になり、寝る前に少し話をするのが日課になっていた。そして今日は初めての…デート?
「飲みに来てくれないから、めちゃくちゃ久しぶりに顔を見た気がします。」
「でも、毎日話してるじゃない。ご不満?」
「不満なわけないです。でも、人はいくらでも欲しがるものですよ。」
欲しいという言葉を使われて、ほんの少しドキッとした。いやぁ、マズイよね。この感じ…
「高橋ちゃんはさ…」
「え、苗字やだ。遠く感じる。」
「じゃあ、たかちゃん。」
「それもなー。千夏って呼んでほしいけど…それはアレだし…。んー、」
「じゃ、とりあえずは、たかちな。」
「え〜、じゃあ私も、杉山さんだから…すぎちなさんって呼んだほうが??」
「長いな。まーなんでもいーよ。あ、ちなぱんでいっか。」
「女子アナ風ですね!」
微妙な関係だからね。呼び方1つで、少し気恥ずかしさもある。今日、初めて2人で休みの日に会う約束をした。今はカフェで話をしている。隣の席に人がいないのが救いだ。だって、友達がする話じゃないし。
電話でたくさん話しをしたから、彼女の名前が高橋千夏であること、年齢が23歳で、大学を卒業して半年間、イギリスに留学していたことも聞いた。帰ってきて、とりあえずあの居酒屋でバイトをしていることも。彼女的には、ただのフリーターだと思われたくなかったらしい。
「それで?就職活動はいーの?私と遊んでいて上手くいかないとか嫌だからね?」
「はい。私的には自分で起業したいのもあって、兼ね合いがあるんですよ。でも、ちゃんと考えてますから!」
「ふぅん?」
別に…付き合うとか考えてなかったから、職業なんてどうでも良かった。意外にちゃんとしてて逆にびっくりというか、見直したと言うか、、ちょっとカッコイイというか…。
私…、まだ元カノから連絡来てるんだよね。元サヤとか考えてるわけではないけど、、まだ前の恋愛にケリがついていないというか…、向こうが納得していないというか。
それなのに…こんな…。正直…、私だって女だ。まだ20代の…、恋愛ざかりの。毎日電話して…、素直に好意を持たれて、、嬉しくないわけがない。寝る前の電話があるから前より気分が良い自覚がある。
「ちょっとお手洗い行ってきます。」
「うん。」
千夏ちゃんの、後ろ姿をじっと見つめた。今どきの子。うっすらとピンクがかった明るい茶色の髪。もう、29歳の私が着ない服。若い。
「どーしよ。こんな早く落ちちゃっていーのかな?ちょろすぎ?」
好きと言うか…、懐に入られてしまった。私がずっと、元カノに求めていた、優しさとか、心地よい会話とか。気配り。それに、孤独を感じさせない。
「こんなの、独り身の女は落ちるだろ。。」
しかし、私が落ちて良いものなのかな。考えてしまう。
「お待たせしました。帰りますか?」
「あ、うん。」
「まだ一緒にいたいですけどね。」
「ご飯食べたし、映画観たし、お茶もしたけど。あとなにするの?」
「いーですよ。次はお酒飲みましょうね!」
「そうね。またお店に行くね。」
「それもですけど、2人でです。」
「そうね。ちなぱんちゃん。」
「今からお家に行っても…?」
「えー、散らかってるしな。」
「うち、実家ですけど来たりは?」
「うーん。夜に突然お邪魔するのは…」
「わかりました。帰ったら電話できますか?」
「寝る頃なら。」
「わかりました。」
こうして、私達の初デートは健全に終わった。私は家に帰ると、やっと元カノの荷物を段ボールに詰め込んだ。今日のうちにコンビニで送るつもりだ。
次に会うときは…断りきれなくしてくれないかなと思っている自分を受け入れるのに、そう時間はかからなそう。
早く、電話こないかな。
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