第2話 噛み合わないのはどちらかが悪いわけじゃない。

「はい、お待たせしました!ささみ串です!」

「わーい、ありがとう♡」


 お通しのもずくを食べながら、私は良い調子で日本酒を飲み進めていた。1合なんてあっという間。嘘でしょ、もう呑んじゃったと焦ったので、慌てて調べた。1合は180mlらしい。ついでに「純米酒」「吟醸」などと検索しながら次に頼む銘柄を考えていた。大吟醸を飲む日が私の最終形態だな!


「次、この吟醸を飲んでみようかな。どうかな?」

「良いと思いますよ!全種類飲んでください。笑」

「今日は無理だなぁ〜!仕方ねぇ、通うかぁ!笑」

「やった!常連様ゲットしましたぁ!」


 ほうら、やっぱり。日常を楽しむなんて、こうやって身近にいくらでもあるんだ。新しい趣味、心地良い会話。それに、このささみ!塩で食べるの最高じゃん。日本酒に合うじゃーん♡


 忙しいだろうに、来るたびに一言二言会話をしてくれる若いスタッフさん。ケラケラ笑うところが可愛い。今日のうちに仲良くなって、常連認知してもらおう。馴染みの店って良いよね!!


「はい、こちがら吟醸です。さっきより、味が立つ感じすると思います。」

「へ〜。ていうか、10代かな?って思ってたんだけどお酒好きなんだね?」

「へ?じゅ、10代〜!?やった、若く見られてる〜!!」

「え〜、じゃあ、当ててみるね?うーん、ということはぁ〜??そうねぇ、20、、2か3か…?22歳だっ!!」

「惜しい!23です!!」

「見えなーい!肌ツルッツルだし!若さっ!!いーねぇ!」


 ちょっと酔っ払った勢いもあって、楽しすぎてつい、おばさんっぽい絡み方をしてしまったよ。うーん、しかしこの子で私の6つ下か。あ、あの人は私の6つ上だから、真逆のご縁ってわけね。なんだよ、付き合っちまうか?なんちゃってねー。


 それから結局、海鮮のサラダをモリモリと食べて、日本酒は計3合呑んだ。日頃そんなに飲むタイプではないから、この辺で終わりにしておこう。私は席を立つと、レジでお会計をしてくれた店長らしき男性にも、「家が近いので、ちょこちょこ来させてください。」と顔を売っておいた。帰る時、23歳のかわい子ちゃんは、休憩だったのか見渡してもいなかった。お礼を言って挨拶したかったけど、酔っていた私は席も立ってしまったし、また会えたら話せば良いと思ってその場を後にした。


「ヘッヘッヘ。この開放感、、最高っ!」


 ここから自宅までは歩いて6、7分というところだ。気分良く歩いていると、鞄の中でチカチカとスマホが点滅しているのに気づく。


 一応、見ておくかと画面を確かめると、うっと顔を顰めたくなる名前が通知画面に出ていた。彼女だ。あ、元カノか。


「なんだろ。着信だけか。メッセージはない、、。大した用事じゃないのかな。あ、荷物ってなんか置きっぱなしだったかな、、」


 ほろ酔いで、私の家にあるあの人の私物、あの人の家にある私の私物について思い出してみた。捨ててもらって構わないようなものしかないはず??家に帰ったらちょっと見てみよう。確認してからと思ったから、折り返し電話するのは後にしたんだ。そしてまぁ、酔っ払いだから。着信があったこともうっかり忘れて、めちゃくちゃ気持ち良く寝てしまった。


 翌日の土曜日。


「う…わ。よく寝た。。お昼過ぎてんじゃん。」


 慣れないお酒を、いつものペースより早く飲んだ。気分が良くてつい、テンション上がっていた。私は気づく。精神状態が良ければお酒は心に良い。そして睡眠の質も上がると。


「あとで明日遊んでくれそうな友達を誘うとして…、今日は自堕落に過ごそう。。宅配でも頼むかな。」


 お昼と夕飯を兼ねて、なにか食事を注文しようとスマホを手に取ると、元カノからの着信が数回入っていることに気づく。


「げ。なんで着信なんだ??用があるならメールしてくれたら良いのに…。」


 折り返すのに気乗りしないから、先に食事を選んで注文した。簡単に身支度をすませる頃には届いてしまったから、テレビを観ながら黙々と食べ始める。食べながら電話するわけにもいかないし、、メールで要件を聞こうとする。


『遅くなってごめんなさい。なにか急ぎの用事?』


 送信すると、そのまま明日会えそうな友達を友だち登録から探し始めた。


「お酒は飲まなくていーし。ランチでも…。あ、でも多少は別れた報告になるな。飲みに行こうって誘うべきか?だとしたら今日のほうが…」


 なんて考えていると、スマホがブブッっと震えだした。あの人からの着信だ。うわっ、まだ食べてるんだけど…さすがに出ていくか。

 口の中の食べ物を慌てて飲み込むと、通話ボタンをスライドして応じた。


『もしもし?』

『あ、千夏。今平気?』

『ああ、うん。大丈夫だけど、なに?』


 最後に私は馬騰されている。最悪呼ばわりされているのだ。向こうが突然フラレて怒るのは理解できるけれど、あんな言葉を吐いて良い理由にはならない。少し冷たい返事になってしまった。


『なにって、電話で簡単に別れられるほど短い付き合いではなかったよね?』

『お互いの部屋にある私物のこと?今日、全部探してまとめて送るよ。』

『……私も送れば良い?』

『お手数ですが、捨てるか着払いで送るか、お願いします。捨ててもいいよ。』


 これで話は終わりかな?まだ文句言われるのは嫌だな。仮にも好きで付き合った人だから、これ以上嫌いを蓄積させないでほしい。。


『…………本気で、こんな簡単に別れるってことでいーんだよね?』

『え、うん。2年間ありがとう。それと、イライラさせ続けてごめんなさい。もっと、貴女の安らぎになる人と幸せにね。』

『イライラさせた?』

『うん。私では癒やしにならなかったでしょ。』

『そんなことないけど。』

『私が話すといつもイライラしてたよ。』

『それは千夏の思い込みなんですけど。じゃあ、なに?私を好きじゃなくなったとか、他に好きな人がいるわけじゃなくって、、自分に自信がないってこと?』


 ああ、良かれと思って言い回しを変えてみたけど、、そう解釈されるとすごく不快だ。私のやり方が悪いのか…。てか、相性だな。相性が悪いんだ。


『自信がない…とまでは思ってない。貴女には私ではダメなんだろうなって。』

『それ、私が言ったことある?ないよね?』

『ごめん、その高圧的なところが嫌なの。』

『それはっ!…千夏が勝手にきめつけるからでしょ?!』


 間をおいて、これ以上神経を逆なでしないように静かに言った。


『私といて、幸せそうじゃなかったよ。私といて幸せなら、私と話してストレスになるわけないんだよ?貴女の癒やしになる人を見つけてね。』

『私が誰と付き合うかは、私の決めることだよ。』

『そうね。ごめんなさい。言葉を間違えました。私は、こんな私でもそばにいたら元気になれる人を探す。切るね?』

『私が千夏といて元気にならないってなんでわかるの!』

『わかるよ…。わからないのは貴女だけ。切るね。』


 こうして、また私は一方的に彼女を遮断した。言葉にして正しく伝えられるように思えなかった。それに、伝える必要すらあるのかもわからなくなってしまったんだ。


「あ。あれ?」


 その時、なぜか今になって思い出した。


「昨日、いかの塩辛、食べてなくない?」


 そして、夕方になったら出かけることにした。感じたい気持ちを感じられる場所へ。



 続く。

  

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