【百合】恋愛はもう良いから、いかの塩辛を下さい。

葉っぱ

第1話 なんで付き合ってたんだろう?

「ただいま、。」

「あ、おかえり。早かったね!」

「は?毎日残業なんですけど。」

「いや、思ったよりってこと。お疲れ様ね。」


 あーあー。せっかく仕事帰りに彼女の家に来て、休まず晩ご飯作って待ってたのに、、機嫌悪いな。まぁ、いつものことか。


「マジでさ。上司とか使えなくて、そのせいで仕事終わらないのわかんないかなぁ!あー、疲れた。」

「大変そうだね。晩ご飯、出来てるけど、、ご飯は少なめ?」

「ありがと。ビール飲むからとりあえずご飯はいーや。」

「じゃ、おかずだけ温めるね。」


 この人のありがとうは、心がこもってない。もうずっとそうだ。言葉だけ言えばちゃんとした大人だと思ってる、この人。

 私は、恋人にご飯を作ったり、仕事から帰って疲れているのを労うのは好きだよ。役に立ちたいって思う。だけど、この感じは好きじゃない。だって、


「もうっ!会社やめちゃおうかな!」

「そんなに大変なんだ、、我慢しなくても良いんじゃない?」

「何言ってんの?働かなかったら生活できないじゃん。だったら養ってくれるの?」

「はは。それはそうだけど。転職もありかもねって。」

「千夏は良いよね。定時で上がれる会社でさ。」

「うん。ストレスがない会社ってわけではないけどね。。」


 ダメだ。もう嫌いかもしれない。高圧的すぎて。これ以上話すのも無理かも。どう言えばあんたからみて100点の答えなのよ。定時で上がれるホワイトに勤めてるとなんか悪いの?ていうか、私だって会社で嫌なことくらいあるけど、、あんたになぐさめてもらったことなんてないよ。あんたが先にグチグチ言うからさ。


(うん。別れよう。休みの日に電話で言おう。これ以上、目の前で責められたら、言いたくないこと全部言ってしまいそう。さらに理不尽なことを言われたら病気になりそう。)


 結局、炊いたご飯は食べなくて、一人前ずつラップして冷凍庫に入れた。「泊まっていくよね?」と聞かれて、「ご飯作って愚痴を聞きに来たわけじゃないからね。恋人と過ごすために来たんだよ。」と言い返したかったけど、もう別れるって決めたし。少しでも綺麗な思い出にしたくて、「うん。」とだけ言った。


 最後だし、と思って、黙って抱かれてみた。感情が入らないせいか、それが伝わってしまったみたいで、「やりたくないなら初めから言えば?」と言われて、思わず笑いそうになった。


「いや、お前といても全然楽しくないの。わからないの?やんわりサンドバックにしてさ。所々で優しいこともして、完全に悪者にならないようにしてるでしょ。気持ち悪いっ!」


 ・・・・とは言わずに。嫌なら付き合わなければ良いのだから、この人のせいだけではない。私が踏ん切れば良かっただけ。


「別れたい。」

「は?何突然。そういう前振り、一度もなかったじゃん。」

「ごめんね。」

「一方的。頭おかしいんじゃないの?最悪。」

「・・・。」


 あっけなく、いつもより罵倒されて、私たちの関係は電話で終わった。


「あ~、すっきりした。最後まであの位くそ女だと、未練がなくていいね。」


 2年付き合った。私が27の頃からで、今29だから・・・35歳か。つーか35歳であれやばくないか?でも、付き合った頃はカッコよかったんだけどな。私より自信家で、仕事のできる大人って感じで。。あんなにカッコ悪く、、いや。もうよそう。すっきりするために別れたのに、いつまでも考えていたら意味がない。6つも年上なのに・・・って、ああっ!やめやめ。。


 っていうか、あの付き合い方で私が楽しいと思ってたのかな。。さて、今週末はどうしようかな。あの人とお酒を飲むと、口汚くなるのが嫌であまり飲まなかった。そうだ、今なら美味しく飲めるかもしれない。


「飲めるお酒、増やしちゃおうかな。」


 一人で、日本酒を覚えてみよう。そうだ。日本酒の揃った居酒屋が近くにあった。あの人と二人で行ってた店だけど、あそこなら一人でも入れそうだ。カウンターの隅っこでゆっくり飲もう。


 金曜日の夜。いつもなら、あの人の家に行くか二人で外食をしていた。街はカップルやグループが飲食店を探してウロウロしている。そんな日に一人で飲みになんて行こうと思ったこともなかったけれど、、もうしばらくは恋愛はいいや。友達と遊ぶ時間もあまり取れなかったし、一人で楽しめることも閃いたらやってみよう。


 自宅の最寄り駅に着くと、目当ての居酒屋の玄関を開けて入った。予想通り、テーブル席は賑わっているけれど、カウンターは比較的空いていた。


「すみません、一人なんですけど良いですか?」

「あ、いらっしゃいませ。はい、カウンターどうぞ!」


 ここって、かわいい子が揃ってるんだよね。若い女性スタッフに案内されると、私は希望通りのカウンターの一番隅に座ることが出来た。


「ふぅ。えっと、とりあえずはウーロン茶と・・・」

「お飲み物はお決まりですか?」


 おしぼりを持ってきてくれたスタッフは、金髪に少しピンクが混ざった今時の子。20代前半かな?文句ばかりの人じゃなくって、何気なく人と話せるだけで癒やされる。


「ウーロン茶と、、日本酒覚えてみようかと思って来たんですけど、おすすめありますか?」

「初めてなら、スッキリ飲みやすいのは、これと、、あとこれですね。」

「じゃあ、これを。あと、ささみの串を2本。」

「はい、かしこまりました!いかの塩辛とかも合いますよ?」

「へぇ。じゃあ、お願いします。」

「ありがとうございます♪お待ちください!」


 商売上手だなぁ。ニコニコしていて素敵。まぁ、私だってよくもあのイライラした人の前でニコニコしていたほうだけどね。あーっ!考えるのやめよう!もう解放されたんだろ!?


「お待たせしました・・・大丈夫ですか?」

「あ、すみません。大丈夫。」

 

 頭をブンブン横に振っていたら、不審に思われてしまった。


「はい、ウーロン茶と、日本酒です。」

「どうも。・・・ん?なに?」

「あ、合いそうかなって。」

「あ、飲んでみるね。」ゴクッ・・・

「一番癖がないやつなんで、」

「うん。飲めそう!癖がない。」

「おー、良かった!度数が高いからゆっくり飲んでくださいね?」

「はーい、ありがとね!」


 やだ、、楽しい。人に丁寧にしてもらえるって嬉しいっ!これは、マジでリハビリものだな。それにしても日本酒、美味しいとは思えないけど、飲めるなぁ~!



 続く。

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