真実
始まりは、秋人君の疑問からだった。
「遠いからってお葬式に参列できないのはともかく、お墓参りに行ってないってどうなんだろ。俺はハルほど付き合い長い訳じゃないけど、いまさんだったらお墓参りは欠かさない気がするし……事情、あるのかなって」
それから、秋人君はさり気なく圭太さんのフルネームをいまちゃんから聞き出し、ネットや図書館でいろいろと調べていた。
もちろんいまちゃんには内緒で、私も一緒に手分けをして調べ始めた。
すると、外国の古いニュースの記事と論文で検索がヒットした。
その記事のコピーを持ってうちのお父さんとお母さん、いまちゃんのご両親に話を聞きにいって、そこで事実が判明した。
●
日本では手術例が少なく、根本的な治療ができない難病を患い、幼い頃から病気と闘っていた圭太さん。
外国では成功例があるのだが、その成功率が三割にも満たないという非常に難しい手術だったそうだ。
死んでしまうかもしれない。
家族やいまちゃん、友達と二度と会えなくなるかもしれない、という恐怖に圭太さんは苦しんでいた。
それでも、圭太さんなりにいまちゃんを不安にさせないように頑張っていたようだ。
私の背中を押してくれたあの日から、いまちゃんは圭太さんさんとの思い出をよく話してくれるようになったから私も知っている。
リクライニングベッドの背もたれに背を預けながら、優しげに、穏やかに、ニコニコと笑っている圭太さん。
いまちゃんが話す思い出話の中の圭太さんは、そんなイメージばっかりだったから。
いまちゃんに、周りに心配をかけないように、と頑張っていたのかと思うと泣きたくなる。
でも、そんなある日。
圭太さんといまちゃんは、いまちゃんのお父さんの病院から大学病院に転院する前日に、大ケンカをしたらしい。
「ずっと圭太のそばにいる!」
「伊万里のそばにいたくても、いれないんだ!」
泣きながら大ケンカをし、そして謝る事ができないまま転院した圭太さん。
でも、そのケンカをきっかけにして手術を受ける決意をしたそうだ。
だけど。
『手術が失敗して会えなくなるくらいなら』と思った圭太さんは、日本をたつ前にお別れのメールをいまちゃんに送ったそうだ。
ただ、それは決して本心からじゃなく……雄一郎さんと友梨さんから、圭太さんがその時に言った言葉を聞いた。
お父さん、お母さん。
僕の一生のお願い、聞いて。
手術は受ける。
本当は、もっと生きていたい
伊万里とずっと、一緒にいたい。
でも、もし。
治らないなら、もし死んでしまうなら。
もう、死んじゃった事にして。
心配されたくない。
伊万里をこれ以上泣かせたくない。
圭太さんの覚悟と決意は、いまちゃんと圭太さん双方のご両親に受け入れられた。
私が覚えていた、いまちゃんが大泣きするところはきっとその後のことなんだろう。
そして。
手術は成功した。
●
だけどそこから先も、圭太さんは中途半端を嫌がって慎重に慎重を重ねて過ごしていたそうだ。
手術後生存率が低いと言われる年数を越えるまでは、この街から遠く離れた療養地でリハビリをしながら通院と入院を重ねたと聞いた。
その気持ちは手術前と変わらず、どんなにいまちゃんに会いたくっても、声を聞きたくても、お医者さんのお墨付きをもらうまでは、と。
いまちゃんを、心の支えにして。
生きたいという想いを、力に変えて。
そして秋人君が連絡を取った時は、次回の通院でお医者さんのお墨付きがもらえるかどうか、というタイミングだった。
ただ。
圭太さんはいまちゃんに想われ続けていることを知らない。私と秋人君も、いまちゃんの想いを伝えていない。
真実を知ったいまちゃんがどう思うのか。
圭太さんがいまちゃんにどう向き合うのか。
そう考えると、私たちが簡単に口を挟んでいいことじゃないと思う。
けれど。
私と秋人君はいまちゃんの味方だ。
私の背中を押してくれたあの日のいまちゃんのことは、秋人君には話している。
いまちゃんがあの時、背中を押してくれなかったら。
あの時あの瞬間に秋人君と本音をぶつけ合えなかったら。
秋人君と私はきっと一緒にいなかったと思う。
お互いの気持ちを全て出し切る機会がないまま、友達としてさえもそばにいることができないままに。
自分の辛さや悲しさをさらけ出してまで、私の背中を押してくれた大切なお姉ちゃん。
そんないまちゃんのためなら、困っているなら、助けが必要なら、私たちはいまちゃんの武器にだって、盾にだってなる。
今回のことは、どうなるか私たちにも見当がつかない。けれど、それでもいまちゃんが本気で出した答えなら……誰がなんと言おうとそれが正解なんだ、と私たちは思っている。
そしてみんなで相談を重ねて、今日が訪れた。
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