過去形

「きっかけ、か。……なあ、ハル。考えてるうちに、タイミングを待つうちに、時間はあっという間に過ぎていく。足踏みしてる間に、手遅れになることだって?」

「うん……わか、る?」


 まるでいまちゃんも、私みたいなことがあったのかも、と思わせるような言葉だった。そうと決めたらすぐ行動、悩む時間なんてもったいない! という性格のいまちゃんが……と思うと不思議だ。


 でも、だからこそ……いまちゃんの表情は真剣で、言葉を聞き逃しちゃいけないような重みがあるんだろう。いまちゃんの話をもっと聞きたい。


「だから、しっかりとソイツの背中を押して。明日よりも今日。あとで、じゃなくて今。これはあたしの失敗から言ってる」


 まただ。


 また、寂しそうな顔。


 いつも元気いっぱいで、背筋をピンと伸ばして楽しそうに顔いっぱいで笑ういまちゃんの、こんな表情は本当に珍しい。


「……いまちゃんも同じようなことがあったの?」

「ああ。あたしの場合はガキのケンカだったけどな。んで自分から謝りづらくって、相手から連絡があったら謝ろうって勝手に決めてた。もう連絡が来ないとも知らずに、さ」

「え!! ケンカしたあとに一度も連絡取れなかったの?!」

 

 ずっとケンカしたままだったんだ……。でも、今の私だってこのままいけばそんな風になるかもしれない。他人事じゃないんだ。


「ハル。あたしがさ、初恋の相手とうちの病院で出会ったって言ったの覚えてるか?」

「うん」

「……圭太っていうんだけどな。小さい頃から難病を抱えて、それでも一生懸命に病気と闘ってた」


 ……

 過去形?


 チリッ。


 うなじに、背中に。

 静電気のような感覚。


 すごい不安になってくる。


 気になる言い方。

 それに、いつもと違ういまちゃんの表情。


 まさか、とは思うけど……。


「あ、あの、いまちゃん……それって……」

「……ああ。ハルも何となくわかったかもしれないが……」


 そのまさか、なの?


 本当に?


「……転院先から、圭太は帰って来なかった。この街と、あたしと……この世界から、旅立っていったんだ」


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