でも。

 こんな言い方をしたらケンカになっちゃう。ケンカどころか、くちゲンカだってあんまりしたことないのに。


 しかも、男子と。


 怖い。

 怖い!


 それに……こんな私を見たら、藤倉君にもっと……。

 

 でも。

 でも!


 冷たい目。

 驚いた表情。

 そらされた視線。

 

 そして。

 

 不安そうに見上げてくる顔。


「私が……私が、いけないんです。藤倉君は、何も、悪く、ないです」


 手が、足が震える。

 言葉が喉につかえて、うまく出て行かない。


「ああ、そうだな。こいつが落ち込んだキッカケは及川さんだ」

「……はい」

「でもな? 俺達が怒ってるのは、じゃない。フジ、お前はわかってるよな? だから悪いけどほっといてくんないかな」

「…………]


「ほうって! おけないです!」

「あのなあ……。おい、フジ。何とかしろ」


 藤倉君をにらむ金澤君の目が、もっと冷たくなっていく。唇を噛みしめる藤倉君を睨む目。


 呆れたようなその言葉に。

 その表情に、体が熱くなる。

 

「私よりもあなた達は、藤倉君の事をいっぱい知ってる。でも……」


 藤倉君が、部活やあなた達の事をどれだけ楽しそうに話してたか……知らないでしょ?


「ツラくても、アイツらも頑張ってるからっ」


 負けられないから。仲間でいたい。最高の……最高のっ、仲間でいたいんだって。アイツらってあなた達のことじゃないの?

 

「みんなで、一緒に頑張って……! 試合で、大会で……勝って!」


 みんなと喜びたいって言ってた。ヤキモチを焼いちゃうような、目をそらしてしまうほどのまぶしい笑顔で。


「なのにっ……あなた達はぁ…………!」


 藤倉君が落ち込んでる時に。

 幻滅しちゃうだけなの?

 呆れちゃうだけなの?

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