『あたし、ごめんなさいしてない!』

「……話すの、こっちでいい?」


 藤倉君は私に手まねきをして、部室の建物の横に移動した。小走りでついていく。


「……それで、話したい事って……」

「あ、あのね……修学旅行のときのこ、と…………!!」


 息が止まる。


 久しぶりにちゃんと藤倉君と目が合って。

 立ちすくむ。


 寂しそうで、悲しそうで、困ってそうな藤倉君の顔を見て。

 言葉が出なくなる。


 あれはウソなの。

 イヤな気持ちにさせてごめんなさい。


 本当は。

 本当は………!


 言わなきゃ、謝らなきゃ。

 これが最後のチャンスなのに。

 

 でも。


 何から。 

 何を。  

 何て。


 伝えたいことがあるのに。

 藤倉君がせっかく私を見てくれているのに。


 早く。

 なのに。

 何で。


「………………?」


 何も言わない私に、藤倉君が首をかしげている。

 

 早く。

 早く言わないと……!

 



『あたし、ごめんなさいをしてない!』




 えっ?


 突然。

 泣いている小さい女の子の姿が浮かんだ。


 ……いまちゃん?

 



『いつもみたいに、また会えるって……! 会えるってえっ!』




 お母さんにしがみついて泣きじゃくる、小さないまちゃん。


 まるで。

 まるで。


 大切な物を失ってしまったかのように。


 泣いてる。

 叫んでる。




『圭太! 圭太……どこっ?! ごめんなさいしたい! どこにいるの? 何で出てきてくんないの? ……神様のところに行っちゃったなんて、ウソだ、ウソだ、ウ、ソ……う、ああ……あああああ!』

伊万里いまり……』

『やだ! やだ! あたし、ここだよ! 早く来て! 早く……圭太! 圭太あああ! うわああああああ! う、ああああああああん!』




 お母さんの服を両手で掴んで引っぱって。

 顔をクシャクシャにして。

 いまちゃんが、泣いている。

 

 これって。

 まさか。

 まさか。


 その時、私見てたの?


 ……いまちゃん!

 いまちゃん、いまちゃん!


 ごめんね。

 情けない私の背中をまた、押してくれた。


 押して、くれた。


「……あのさ、無理して話そうとしなくてもいいよ。もし言いづらいなら、俺の話を……」

「無理じゃない!!!」

「……え?」

「あるの! お話したいこと!」

 

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