神様、お願いです

 叫んだ私にビックリした藤倉君と目が合った。


 ずっと大好きな、大好きな藤倉君。



 四年生の、あの時。


 図書室に返す本を読みなおしてた私と、職員室に行った友達を待ってマンガを読んでいた藤倉君が、教室で最後の二人になった。


 同じクラスだけど、あんまりおしゃべりしたことがない藤倉君とふたりっきりになって、だんだんドキドキしてきてチラチラと背中を見てた。


 藤倉君も、私を気にしてるのかな?


 そう思ったら、何か話しかけられちゃうかも! って勝手に勘違いして、本を読んでられなくなって逃げたんだ。


「藤倉君、バイバイっ!」

「……えっ? あ、バイバイ」




 それから藤倉君を目で追うようになって。

 気がついたら好きになってた。


 いっぱい。

 いっぱい。


 好きになってた。



「あの夜……! 修学旅行のっ!」


 藤倉君、ごめんなさい。

 

 もう話しかけないから。

 これが最後だから。

 


 五年生で違うクラスになってショックだった。でも、たまに見れた時は本当に嬉しかった。こっそりと、ずっと見てた。


 教室移動で藤倉君のクラスの横をみんなで通る時、わざと大きい声を出したり笑ったりしてた。私が通ったって、私の声が聞こえるって、藤倉君に気が付いてほしかったの。

 

 ごめんね。

 藤倉君が大好きだった、あの時の私たち。


 私がいけないの。



「旅行でイヤな気持ちにさせてゴメンなさい! 私あの時、ウソついた! 藤倉君のこと、何とも思ってないって……ウソついたの!」

「え? そ、それって……」

「私……本当は! ほんっ……とうはぁ!」



 中学で同じクラスになれてすごく嬉しかった。


 小学校の時のことで藤倉君に話しかけられてからは少しずつ話せるになって、学校に行くのが待ち遠しかった。


 図書室からテニスコートの藤倉君を応援した。


 恋のおまじないをいっぱい試した。


 心の中で『好きです』って何回も言っては、いつか届くかもって信じた。

 

 両想いになって、手をつなぐ未来を夢見てた。





 ごめんなさい、藤倉君。

 もう迷惑はかけない。今日だけ。


 ごめんね、私たち。

 藤倉君を好きな気持ちは、これからも変わらないから。

 

 この前の私が、全部全部台無しにした。


 開けてられなくなった目から、涙がいっぱいこぼれていく。

 唇が、震えてる。


 でも、これだけは言わないと。


 ●

 

「何とも思ってなくない! 私、本当は藤倉君の事、小学校から大好きだったのに、ウソついた!」

「…………!!」

「あの時みんなに本当のこと言われて……片想いがバレてて恥ずかしくてウソついたの! 私、サイテーだよね……みんなの前でウソついて、藤倉君をイヤな気持ちにさせて……みんなにも、言う、か、ら……」




 本当に、本当に好きなの。

 藤倉君が好きで、毎日が幸せだった。


 会うたびに、話すたびに。

 このまま、時間が止まってくれたらって。




「もう二度と……話しかけたりしないから……ごめんなさい……」

「及川さん……」


 声が裏返って、かすれてる。

 ぼろぼろぼろ、と涙がこぼれる。

 みっともない私。


 もう泣き声と涙しか出てこない。

 最後まで、藤倉君を困らせてる。


 でも。

 

 神様、お願いです。

 

 藤倉君が私を嫌いでも、あれは本当の気持ちじゃなかったって、藤倉君があの時の事でもうイヤな気持ちにならないように、届けてください。


 届けてください……!

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