どんな明日が待ちかまえていようとも

 はあっ。


 はあ、はあ、はあっ。


 涙を拭きながら全力で走る。


” 頑張ってこい、ハル ”


 いまちゃんは言ってた。


 やっぱり、私のことだって気付いていたんだ。でも私がなかなか本当のことを言いださないから、合わせてくれて。絶対に辛いはずなのに、昔のことを思い出してまで私の背中を押してくれた。


 はっ、はっ、はっ。


 走れ!


 きっと今日も藤倉君は学校にいるはず。藤倉君と話せてた頃、土曜日も毎週部活だって楽しそうに言ってた。


 はあっ!


 息が苦しい。

 

 でも、走れ!


 走れ、走れ!


 ゾウさん公園を抜けていけば、学校まですぐだ。帰り道、藤倉君と話しながら、笑いながら何度か通ったところ。


 ここも、大切な思い出の場所だった。


 …………!!


「んんんんんんんっ!」


 はあっはあっはあっ、……………………!!!


 少しでも早く走れるように時々息を止めて、足を動かす。


 私、自分のことしか考えてなかった。藤倉君があんなにツラそうにしていたのに、きっかけがないからって自分に言い訳して。藤倉君から嫌いだって言われるその時が怖くって、何もしなかったんだ。


 藤倉君だって、元気のない顔を誰かに見せたいはずがないのに。


 目が合ってしまった、なんて顔をさせて。

 目をそらさせて。


 あんなに。

 あんなに悲しい顔をさせて。

 

 私、本当にサイテーでサイアクだ。


 胸がギュッとなる。


 ごめんなさい。

 ごめんなさい、藤倉君。


「あっ!!!」


 つまづいた?!

 転んじゃう!


「あああっ!!」



 ………。

 ………………。


 痛た、た……。


 全力で走ってたから、ごろごろと転がってしまった。手とひざがヒリヒリする。すりむいたかもしれない。ひじと肩も痛い。


 起きなきゃ。

 起き上がらなきゃ。


 うつ伏せで右手を握りしめると手の中に砂がくっついたのか、じゃりじゃりとしている。


「………………!!」


 何もかもが情けない自分に悔しくなって、握った右手のはじっこで地面を叩いた。そして、ひじとひざから体を起こしていく。


 痛い。

 痛い。


 胸が、痛い。


 これは、あんなに苦しそうな顔の藤倉君をそのままにしておいた、そして「友達のこと」ってウソの相談をして、いまちゃんにあんなに背中を押してもらうまで何もしなかった私への罰なんだ。


 明日も同じふうに後悔をするってわかってて、ほうっておいた私への。


 立ち上がって、左手に握りしめていたミニタオルですりむいたひざを拭きながら水道へと向かう。


 おそるおそる傷を洗い流すと、全部沁みて痛い。


 涙が出る。

 でも、傷が痛いからじゃない。

 

 後ろばっかり見てた私を、悔しいと思う涙。藤倉君に嫌われることがわかってても、走れ! っていう気合いの涙。


 袖で涙を拭いて、学校の方を見る。


 今日、私の初恋は終わる。今さら、『本当は好きでした』なんて言われても迷惑なだけだと思う。藤倉君との楽しかった時間は、もう二度と戻って来ない。


 でも、藤倉君のもやもやが、悲しさが、ツラさが少しでも減るなら。いつもの藤倉君に戻って、誰かにあの優しい顔を見せれるようになるのなら、それでいい。


 明日の藤倉君が今日よりも元気になるなら、それでいいんだ。


 藤倉君と座ったベンチを目に焼き付けて、楽しかった日のことを胸にしまいこんで、走り出す。


 大丈夫、痛いけど走れる!


 どんどんと足に力をこめながら、スピードを上げていく。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る