友達のことって

 家庭教師の日、土曜日の午後。


「こら、ハル。全然集中できてねえな」


 開始から一時間もたたないうちに、注意されてしまった。相談するタイミングがつかめなくっていまちゃんを何度も見ていたら、丸めたノートでポコン、とされた。


「……ごめんなさい」

「いいさ。てか、チラチラもじもじしてっから、こっちも気になってしょうがねえんだよ。何がどうした?」

「うん……実は、いまちゃんに相談したいことがあって」

「そうなんか? ま、ハルもお年頃だからな! ほれほれ、伊万里姉いまりねえさんがお悩み、聞いてやんぜ? だっはっは!」


 いまちゃんは私の目を覗きこんで、いたずらっぽく笑っている。


 こういうトコだ。


 いまちゃんはどんな時でもどんなことでも一旦受け止めて、しっかりと向き合って話をしてくれる。誰でも同じ。ずっとそうだ。


 もちろん、話を聞いて私が間違ってたら怒られることもある。小さい頃に、納得がいかずに駄々をこねた時だってあった。


 でも、そんな時もいまちゃんは、一生懸命考えてくれた。怒ったり途中で呆れてどっか行っちゃったりされたことなんてなかった。


 いまちゃんなら。


 きっと、そんないまちゃんなら……藤倉君と前みたいにお話ができるようにヒントやアドバイスをくれる。


 ウジウジしょんぼりした私をいい方向に向かわせてくれるって、思うんだ。


「いまちゃん、あのね……」


 

「なるほどな。ヒミツにしてた片想いがバレバレで、パニクって違うって言ったら、たまたま本人が聞いてた、と。確かにキビシイな、心に来るわ」


 泣きそうになるのをこらえて頷く。


 ただ、私は自分のことだとは内緒にしている。

『友達が、今悩んでいる』と、相談をしたのだ。


「で、仲直りしたくてもどうしたらいいかわからない、か。もうソイツが正直に、『好きじゃないなんて嘘』って言っちまったほうが早いんじゃねえの?」


 ストレートに言ういまちゃんに、言葉が詰まる。




 藤倉君のあんな顔、見たくなかった。

 こんなことになるなら。


 本当の気持ちを、言えばよかったのに。

 今からでも言いに行ければ、変わるかもなのに。


 勇気が、出ない。

 最低だ、私。


 でも、怖いもん。

 怖いんだもん……。


 まだ嫌われてないって、思っていたいの。

 まだ、何とか、なるっ……て……。




 ぽとり。

 ぽとり、ぽとり。


 ガマンしていた涙が、とうとう、こぼれていく。


 泣いたら、ダメなのに。

 友達のことって、相談してるのに。

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