くるり、くるりくるり

 本屋を出たら、テニスラケットを持った男子とすれ違った。


 藤倉くんじゃなくて少しがっかりで、ホッとして胸がぎゅうってなる。さけられてても、目をそらされても……会いたいって気持ちは変わらなくって苦しい。


 藤倉君は今頃、部活でラケットを握りしめて頑張ってるだろう。


 こないだまでは図書室で勉強をしながら、藤倉君を見れたのに。窓から見えるテニスコートで、走り回る藤倉君にドキドキしながら『かっこいい! がんばれー!』って応援できてたのに。


 でも、今は。


 頭の中で、いろんな藤倉君が。

 くるり、くるりくるり、と回る。




 変顔で笑わせてくれた藤倉君。

 ニコニコと手を振る藤倉君。

 楽しそうに部活の事を話す、藤倉君。


 さびしそうに苦笑いしていた藤倉君。

 私と目があって、びくり、とする藤倉君。

 気まずそうに目をそらす藤倉君。




 私から目をそらす、藤倉君。




 涙をガマンしながら、またトボトボと歩く。

 私の、せいだ。


 ごめん……なさい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る