第7話
信じられない思いで、朔が声を上げる。
「え……、見つかったのか、本当に!?」
「ああ。確認したから間違いないよ」
しかし、そう言って彼が指さす先には、何もない。
「君には見えないか。彼らはどうやら、葉の方にリボンを結んだらしい。割と最近までなんとか形は保ってたみたいだけど、とうとう、最後のかけらも飛ばされたみたいだね。でも、その
「……でんぷんを、作れていない……?」
「そう。モミの木の葉は、十年、同じ葉を使い続けるからね。リボンがずっとしがみついていた木の葉も残ってる。光合成ができなかったってのが証拠なんだけど……、目ではっきり見えないのが残念だな。人間の目では……、ヨウ素液だっけ? それを使えばわかるのかもしれないけど」
「……あんたは、ヨウ素液を使わなくてもわかるのか?」
「――いや、実は、ここにいた小人に聞いたんだよ」
「……は?」
朔が、目を丸くした。吸血鬼が苦笑して続ける。
「ドイツでは、モミの木に花や食べ物を飾ると、小人が集まるって言われてるんだ。この木にリボンやクッキーを飾ったのは、君の知り合いのお姉さんたちだけじゃなかったってことだね。きっと、全盛期には、この木は小人たちでにぎやかだったんだろう。誰も通ってこなくなった今も、
吸血鬼の手元には、持っていったはずのミカンがない。それが、彼が食べたからなのか、小人にあげたからなのか、朔は尋ねようとして――やめた。
答えを知ったところで、朔には確かめようがない。
「……ここは、日本だけど」
「でも、物まねだろうと今はクリスマスシーズンで、廃墟だろうと、ここは教会だった。小人が現れたっておかしくない」
吸血鬼もいるんだし。そう言って、彼は笑った。
「信じようが信じまいが、それは君たちの自由さ。パフォーマンスが必要なら、こうしてみてもいい」
吸血鬼はいつの間に用意していたのか、ポケットから白いリボンを取り出し、指し示していた葉の部分に結ぶ。
ペタシャムリボンという、丈夫なリボンだ。両ふちが細かい山型になっているのが、フリルのように見えてかわいらしい。
五年前に彼女たちが結んだのと同じリボンかはわからないけれど、吸血鬼の言う通り、本物かどうかは関係ないのかもしれない。
以前を思い出す
白いリボンに託されていた願いへ想いを
「……本当に見つかるとは、思わなかった」
「僕もだよ」
吸血鬼が、肩をすくめてそれに賛同した。
「でも、見つかってよかったよ。思ったより余裕で間に合ったね?」
「…………」
「……朔?」
朔は返事をせず、木の陰に隠れた。冬でも青々と生い茂る葉で身を隠し、吸血鬼に背中を向ける。
しばらく待ったが、返事はない。吸血鬼は枝に座り直し、声のトーンを落としていった。
「
「…………」
「リボン探しなんて、本当は、口実だったんだろ?」
「――っ」
朔は唇を引き結び、それから息をついた。吸血鬼に背を向けたまま、顔を
「ご存じだったんですか?」
女の声だ。朔、本来の声と口調に戻っている。
(だから、隠れたのか)
男装したまま女の口調でしゃべるのは不自然だから。
そう思って吸血鬼はふき出しそうになったが、思い直した。それだけじゃないのだ、きっと。
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