第5話

 なんとか気持ちを奮い立たせて、一週間かけて二つの教会を周った。しかし、それらしいものはやっぱり見つからない。


 絶対に見落としがないという自信はないものの、もう一度すべての教会を見直すほどの気力はなかった。モミの木以外も探すというのはさらに遠慮したい。

 いつもの公園で、今日からどうするか、と朔が切り出すと、吸血鬼はベンチに座って伸びをした。


「うう、これ以上はきりがないよ。やるだけやった、クリスマスシーズンによく耐えた! 讃美歌とかハンドベルとか聞こえてきても泣かずによく頑張った!」

「いや、まだ時間あるし――」

「もう限界! 無理!」


 ベンチにばたんと倒れて寝そべり、梃子てこでも動かないかまえである。


「おい、吸血鬼――」


 朔の呼びかけも吸血鬼は無視した。

 途方に暮れたように見下ろしていた朔が、ふときびすを返した。木の根元に置いたリュックをガサゴソとあさっていたかと思うと、戻ってきて、吸血鬼の頭上に何かを垂らす。


「これ。あげようと思ってたの忘れてた」


 吸血鬼が手に取ると、それは袋に入ったミカンだった。無言のままベンチから起き上がり、皮ごとかじりついて二口でたいらげる。


 しばらく黙って食べ続けていたが、残り三個になった時点で、何かに気づいたように顔を上げた。


「――ああ、そうか。あのモミの木――」

「え?」

「朔。あと一か所だけ付き合うよ」

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