夢という事象について

「い章」

一本調子の木魚が鳴っている…

まるで俺が死んだかのようだ。


或いは、不可思議な色調である…

まるで冥界に臥しているかのようだ。


そして、神社の景が移ろう…

まるで俺の故郷が手招いているかのようだ。


最後には、何も無い…

何にも無いのだ、何にも。


暗闇という、孤独だけが俺に残る…

夜明けはまだ来ない。



「ろ章」

死んだ!

俺はとうとう死んだのだ!


これ程不思議な死はあるまい!

俺は夢に死んだのだ!


夢に飲み込まれて、苦もなく!

俺はこの夢なる麻薬に溺れたのだ!


社会にも、または友人にも用は無い!

思い出は一つも思い出せない!


本当に、死んだのか?

俺には感情が残っている!


夜明けはまだ来ない。



「は章」

夢というのは、

一つの不思議な事象である。


夢というのは、

一つの麻薬のようである。


夢というのは、

いつか終わるものである。


夢に溺れた人間は、

目覚めてもまた眠りにつく。


夢は、自分を忘れさせる。

自分は、夢を忘れる。


そろそろ夢から覚める。


夢の不可解さは、

即座に移ろう感情と景色である。


夜明けが来た。



「あとがきの章」

これが夢なのかは、誰にも分からない。

自我というものは、夢にもある。


これが夢なのかは、夢にも分からない。

夢は、ただ一つの事象であるから。


夢は、事象であると同時に

神から出される処方箋である。


用法は、就寝前に

枕元に一つ置いて置くだけ。


それで、おしまい。

これも、おしまい。


(一日に何度も服用しないこと!

永遠の眠りについてしまう!)

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