第10話:シズク団長

 シズク団長『ミチルとフブキはカップルだったのか?』

 ミチル『あのときだけはそうでした』

 フブキ『……すいません』

 副団長『問題ないでしょう。それで、ノブレス・オンライン2はどうですか?』

 ミチル『控えめにいって神です。でも、フブキの腕がちょっと』

 フブキ『頑張ってるんだが……?』

 シズク団長『くれぐれも黄昏の剣としての誇りを忘れるなよ。今度配信とかもあるんだろう? 楽しみにしてる。駅に着いた。またな』

 ミチル『私も駅に着いたのでまた』

 フブキ『同じく、ではでは』

 副団長『はい。またね』


 電車の通学途中はもっぱら『ノブレス・オンライン』でチャットを楽しんでいる。

 ゲームだけじゃなく、会話も楽しめるのがいい。

 それにしてもシズク団長は、朝から仕事なのだろうか。


 かなり若く見えたが、年齢は教えてもらえなかったな。

 

 駅を降りると派手な金髪が目に入った。

 同じ車両だったのか。


 前と同じでイヤホンを付けている。

 一人の時間を邪魔するのもあれだろう。


 あれから何度か『ノブレス・オンライン2』を未知留の家でプレイしている。

 団長の言う通り、今度配信をする予定だ。


 ……恥ずかしいが、ちょっとだけ楽しみでもある。


 ゲームをプレイしているやつなら、一度くらい配信者に憧れたことはあるだろうからな。


 するとそのとき、後ろからどんっと誰かがぶつかった。

 とても軽い。

 振り返ると、黒髪で女神が隠れている小柄な女の子だった。


「あ、あう……すみません……」


 俺と同じ制服だ。

 こんな子、クラスメイトにいたか?


「こちらこそ。大丈夫ですか?」

「……はい。ありがとうございます」


 そう言うと、恥ずかしそうにささっと消えていく。

 ちょっとだけシズク団長に似ていたが、性格が真逆そうだ。


 そういえば、団長も高校生ぐらいなのだろうか?



 

 HR前。

 俺の隣では寒いのかブランケットを羽織りながら気だるそうにスマホを見ている未知留が座っていた。

 ピアスは、前のイベントで買ったノブレスの魔法の杖と剣だが、よく見ないと分からない。


 周囲は彼女が遅刻せずに来ることにようやく慣れてきたらしい。

 同時に、未知留がそれほど怖くないのかも、とも思ってきているみたいだ。


 その理由は、俺も関係しているのかもしれない。


「ん、あれ、いたんだ。おはよ藤崎」

「おはよう、相沢」

  

 

 軽い挨拶だけだが、教室で少し話すようになった。

 さすがに下の名前では呼ばないが。


 そういえばなぜ金髪なのか、今日こそ聞いてみるか



 そのとき俺は、教室の端にさっきの女の子を見つけた。


 え、同じクラスだったのか?


 ……そういえば。


 病弱で休みがちと言われている子か。

 今思い出した。


 名前は確か、八辻やつじしずくだったか。


 名前まで団長と一緒とは、凄い偶然だな。


「そういえば相沢、団長って何歳だと思う?」

「ん、なんでだ?」

「私たちが駅ついたときにちょうど着いたっていってたし。もしかして高校生かなって」

「流石にないんじゃないか。小柄だけど、絶対あの性格と雰囲気は学生っぽくはないしな」

「言われてみればそうかも」


 シズク団長の口癖は『皆殺しにしろ』だ。

 『ノブレス・オンライン』では、ギルド同士の争いがある。


 そのときはいつも先導に立ち、ジャンヌダルクのように前線を張る。

 その姿に惚れているのが、俺たちギルド員だ。


 オフ会でもまさにそんな感じだった。


 声を張って、ビンゴ大会でも叫んでたな。



 一時限は国語だった。

 朗読の時間があり、ふと八辻雫の番になった。


「……海が行く、その中で、私たちは戦うのだ。――『皆殺し』にしろと、叫ぶ」


 そのときの声のトーンが、やけに団長に似ていた。


 だがまあ、気のせいだろう。


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