第9話:ノブレスカフェで和気あいあい

 人混みをかき分け、ゲームセンターに入店した俺たちは、プリクラコーナーに隠れていた。

 ひょいと中から外へ顔をのぞき込むが、穂波の姿はない。


 あいつは国体に出るほどの脚の速さを持つ。

 二つ名はジャッカル。


 逃げ切れたのが奇跡だ。


「ちょ、ちょっと何なの? 今の子誰? もしかして彼女――」

「……妹だ」

「妹……ちゃん? え、じゃあなんで逃げるの?」

「かくかくしかじかだ」

「それ本当に言ってる人、初めて聞いた」

「色々あるんだ。気にしないでくれ」

「別にいいけど……てか、プリクラなつー」


 気づかなかったが、プリクラのデモ映像が流れていた。

 いまだに現役ではあるが、スマホで加工しやすくなってからというもの文化が減ったように思える。


 ――チャリンチャリンチャリン。


 すると、なぜか未知留がお金を入れていた。


「え? 何してんだ」

「ほら、フレーム決めないと。時間ないって」

「は、はい!?」


 言われるがままにフレーム内に入ると、すぐにハートマークを作ってと言われた。


「え、ええ?」

「ほらほら」


 それからも何度か無茶な注文が続く。


「ほら、頬をつけてだって」

「いや、それはさすがに――」

「ノブレスでもよく二人並んでスクショしてたじゃん、ほらほら」


 無理やりに肩を掴まれ引き寄せられる。

 間近で見ると、肌がめちゃくちゃ綺麗だ。

 それに、香水みたいな匂いがする。


 そして、ようやくひと段落。


「すげえ疲れるんだな……プリクラって」

「そう? あ、外で落書きだって」


 懐かしさと恥ずかしさで外に出る。

 だがそこにいたのは、見慣れたジャッカルだった。


「お兄ちゃんの匂いが……あ!」

「……え」

「あ、もしかして妹ちゃん? こんにちわー。相沢未知留って言います」


 俺が返答に困っていると、金髪をふわりとなびかせながら未知留が頭を下げた。

 穂波は中学生。明らかに子供だが、そんなの関係ないのだろう。


 そういえば、ゲーム内でも挨拶は丁寧なやつだ。


 それに困惑した穂波も、え、ええと、よろしくお願いしますと返す。

 しめた。畳みかけるなら今しかない。


「え、ええとその、俺がやってたゲーム知ってるだろ? 穂波」

「ノブレス……オンライン?」

「そうそう。そこで同じゲームしてたのが、まさかの同級生だったんだよ」

「……ふうん?」

「吹雪さんお久しぶりです。カレンです!」

「カレンちゃん、久しぶりだね」


 穂波の友達のカレンちゃんは、とても空気が読める子だ。

 俺のてんぱりをわかってくれたのだろう。


 少しジト目で睨んできている穂波だが、未知留の金髪と先制攻撃に何も言えなくなってる。


「あ、プリクラ出てきたよ」


 だがそのとき、後ろからガチャコン。


 出てきたシールを笑顔で拾い上げる未知留。

 それに気づく穂波。

 微笑むカレン。

 震える俺。


「見て見て、イイ感じじゃない?」


 そこにはハートマークを作っている俺と未知留がいた。

 それを見た穂波が――鼻水を垂らす。


「お、お兄ちゃんやっぱりいいいいいいいいいいいそういうことだったんだああああああああああああ」

「わ、お、落ち着け穂波!?」

「穂ちゃん!?」

「……え? ど、どうしたの!?」


 何が何だか分からない未知留が一番てんぱっていた。


   ◇


「へえ、吹雪ってそんな事してたんだ。悪い子だね」

「ほんとお兄ちゃんは悪い子なんです。私からゲームを取り上げてたんですよ」

「幼稚園の時の話だろ……」

「お兄様のポテト頂いてもいいですか?」

「そんな畏まらなくていいよカレンちゃん。いいよ、食べて食べて」


 未知留の丁寧な挨拶のおかげか、穂波から攻められることはなかった。

 近くのイベントでやっていたノブレスカフェに移動し、ハンバーガーセットを奢ってやると機嫌も良くなった。


 カレンちゃんは昔から穂波の友達で、明るく丁寧ないい子だ。

 後、よく食べる。


「でも、ゲーム内の吹雪って凄いよ? ボス戦とか、めちゃくちゃ格好よくて、ここぞってときは、みんなについてこい! っていうからね」

「へえーお兄ちゃんにそんな側面があるんですね」

「ゲーム内の話だぞ。ゲーム内」

「お兄様のハンバーガーも頂いてよろしいですか?」

「めっちゃ食べるね。それ二個目だよ?」


 気にしない気にしない。


「吹雪は優しいところもあるよね。この前も、ゲームで人助けてたよ」

「そうですね。わかりますよー! 私にもこの前!」

「リアルとゲームを混合するなよ……」

「お兄様のジュースも頂いてよろしいですか?」

「カレンちゃん、もうワンセット頼んでこようか?」


 カフェを終えるとノブレスについて少しお喋りして、


 未知留はカレンちゃんと家が近いらしく一緒に。

 俺と穂波は帰ることになった。


 オンラインチケットは後日保留。

 楽しみは後に残しておいていいだろう。


「未知留さんいい人だったね」

「ああ、そうだな。あいつはいい奴だ」

「……付き合ってるの?」

「え?」

「私、未知留さんならいいかもって思えた。でも……ちょっと寂しいな」

「ただの友達だよ」

「ほんとー?」

「いや、親友かな」

「本当かなー」


 信じてはなさそうだが、何にせよご機嫌で良かった。

 自宅に帰って風呂に入ると、未知留からラインがきていた。


 メッセージを見る。


『ねえ、やっぱり早くゲームしたいから、今夜来ない?』


 

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