第3話:未知留と吹雪? ミチルとフブキ?

「それではまた異世界でな! お前たち、楽しかったぞ! 二次会でも酒は禁止だぞ! 今宵は素面で楽しんでくれ!」


 シズク団長の挨拶で締めくくり、黄昏の剣のオフ会は無事に終わった。

 意外過ぎるが未成年だったらしく、二次会に来てほしい大人たちの誘いを断り、家へ戻るという。

 

 そういうしっかりとしたところも団長のよさだ。

 ちなみに俺もツーショットを撮ってもらったが、流出禁止、しっかりとシズク団長が気を付けろい! と釘を刺していた。


 夜ではあるが、まだ20時頃だろう。

 電車に乗って帰れば21時くらいか。


 風呂に入ってゲームしたいが、それよりも俺は相沢が気になって仕方なかった。


 あの後、席の交換があり、相沢と話すことは殆どできなかった。

 今もギルメンの女子に囲まれて、二次会をせがまれている。


 リアルの話なんてほとんどしたことがない。

 いつもゲームの攻略ばかりで気づかないのも無理はないのだが、相沢はどう思ってるだろうか。


 まさか『フブキ』が俺だなんて知って、ショックを受けてないだろうかと。


 ……いやいいか。

 相沢は楽しそうだった。

 それだけでいい。


 ゲーム内で、またいつものように話せるだろう。


 そう思い駅まで歩ていたら、後ろからとんとんと肩を叩かれた。


「藤崎、待って」

「ん? 相沢。――二次会行かないのか?」

「行かないよ。もう遅いしね。――で、一緒に帰ろ。あんまり……話せなかったし」

「え? あ、ああ」

「……嫌?」

「いや、びっくりしただけだ。まだその……わかるだろ?」

「……わかる。でも――」


 でも……?


「嬉しかったよ。藤崎で」

「……どういう意味だ?」

「いい意味で」


 よくわからなかったが、俺たちは一緒に歩きはじめた。

 今まで一切接点がなかったものの、すべてを飛び越えて、一応――親友。


 すげえ出来事だな。


 だが会話は弾まなかった。

 リアルのこと話すべきか? いや、ゲームのことか?


 どっちがいいのだろう。


 だがそのとき――。


「てかさ。団長、可愛すぎない? 絶対みんな言ってるよね」

「……確かにな。あんな小柄だと思わなかった。しかも未成年だって。俺たちとそう年齢変わんないんじゃないか?」

「ふふふ、だったら笑えるね。でも、藤崎も高校生とは思わなかった。口調も丁寧だったし、大人びてたっていうか」

「そうか? それをいうなら相沢もだろ。最前線で団長と一緒に突っ込んで暴れまくるし」

「あれは団長がついて来いっていうからだよ?」

「それについていけるのは『ミチル』ぐらいなもんだ」

「へへ、褒められた」


 ふとしたきっかけで、俺たちはゲーム内と同じように話始めた。

 気づけば自販機の前で足を止め、飲み物を買って立ち話。


「あ、お金払うよ」

「いいよ。この前、狩りで頑張ってくれたし」

「ふふふ、ありがとう。あれ、大変だったねー」

「夜までかかったもんな。そういえば、相沢って俺が寝るときもゲームログインしてるよな?」

「……え?」


 そういえば相沢って……もしかして。


「もしかしていつも遅刻してるのって、朝までゲームやってるからか?」

「え……ええと――はい。ごめんなさい」


 ペコリと頭を下げると金髪が靡く。

 まさかすぎるだろ。


 じゃあなんだ。ヤンキーじゃなくて、ただのゲーム好きってことなのか?

 それより――。


「団長がいつも言ってるだろ。リアルに支障をきたすのやつは、黄昏の剣では許さん!って」

「……はい」

「遅刻、しないようにしようぜ」

「……わかりました」

 

 ゲーム内のミチルは強くてオラオラしているが、こうやってダメなことを指摘するとすぐにわかった、といって切り替える。

 俺も説教っぽくなってしまっていたが、相沢のことをクラスメイトが誤解しているのが嫌なのだ。


 彼女の事はゲーム内でしか知らないが、本当にいい奴だ。

 俺も含めてだが、ただ誤解していただけなんだと。


「なんか偉そうにごめんな」

「んーん。そうやってちゃんと怒ってくれるの、いつものフブキみたいで嬉しいよ」


 緊張はいつの間にか消えていた。

 それからゲームの話にまた移り変わり、やがて、気づく。

 相沢が、目を見開きながら右手の時計を見ていた。


「……ヤバイ、マジでヤバいかも」

「どうした突然、芸人みたいに」

「ねえ、吹雪・・終電は?」

「え? は? え、なにこれタイムワープ!?」


 気づけば23時過ぎ。終電ギリギリだ。

 走って駅まで向かったが、慣れない場所で道を間違えてしまった。

 

 さらに二人ともスマホの電源が切れている。

 オフ会でゲームイベントをしていたからだろう。


 ようやく駅にたどり着いたが、時既に遅し。


「やらかした……」

「ごめん、私のせいだよね。喋りすぎたかも」

「いや、俺も楽しかったからな。それより、未知留・・・もじゃないのか?」

「あ、いや、私は原付で来たから」


 あーなるほど。だから俺よりも早かったのか。


「二人乗りはできないしなあ……」


 今日はオフ会に行くと家族に伝えていた。

 だが連絡しないと怒られるだろう。

 タクシーで帰ってお金を払ってもらう、うーんぶちぎれられそうだ。


「大丈夫。コンビニでモバイルバッテリーでも買って連絡してみるよ。ありがとな」

「……だったら、私の家そんな遠くないし、そこで充電する?」

「え? 家……家!? こんな時間、親に怒られるだろ」

「あ、私一人暮らしなんだよね。今日、結構お金つかったし、そのほうがいいでしょ?」


 確かに相沢の言う通りだ。

 バイトもしてない俺にとってお金は貴重だ。

 それもモバイルバッテリーがあるのかどうかもわからない。


「……いいのか?」

「もちろんだよ。原付は明日取りに来るから、一緒にあるこっか」

「悪いな」

「大丈夫。――ほら、『私に着いてきて』」

 

 その言葉は、ゲーム内の未知留の口癖だった。

 どんな危険場所でも、先導してくれる。


「ありがとう未知留」

「……てか、さっきから呼び捨てなんだけど……それ、どっち・・・? ゲームの名前? リアルの?」

「どっち? え、あいや!? ゲームのミチル……で」

「ふふふ、冗談。私も吹雪って呼ぶよ。そのほうが言いやすいし」

「……じゃあ未知留で」

「はいはい。――後、一応言っておくけど」

「どうした?」

「普通は家にこうやって呼ばないからね。吹雪だから信用してるだけ」


 やっぱり未知留はいいやつだ。


 そして、未知留の家でスマホを充電し、親に電話するというクエストが開始した。

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