第2話:俺があいつで、あいつが君で
いま俺が見ている光景は、まるで異世界に転生してきたみたいだった。
店内は異世界の酒場をイメージした作りになっている。
汚した風にした木机や長椅子に、大勢が座っていた。
壁や内装も凝っていて、あえて木をむき出しのまま加工している。
薄い明かりのランタンがいくつも飾られいて、壁の文字は『異世界文字』風でまったくわからないが、それがまた良い。
そのとき、一番奥で立ち上がった女性がいた。
瞬殺の二つ名を持つ、我らがギルド団長『シズク』。
黒髪ショートカット、ハーフのような顔立ちで、凄く背が低い。
「団長めちゃくちゃかわいいな」
「てっきり大柄の男だと思ってた」
「マジで女だったんだ」
「後で一緒に写真撮りたいー」
女性だとは知っていたが、まさかここまで小柄だとは思わなかった。
確かに……可愛いな。
「皆の衆、よくぞ集まってくれた! 私がシズクだ! 我ら『黄昏の
だがその物言い、その口調は、まさに団長だった。
手に持っているのはエール、もといビールっぽいジンジャエール。
カンパイと共に、ドッと団長に群がっていく。
「団長、写真一緒にとりませんか!?」
「私とも! だんちょー!」
「シズク団長ー!」
ゲーム内ではボンキュッボンの女戦士で、とにかくカリスマに溢れている。
粗暴な言い方もするが根は優しく、去る者追わず、来るもの拒まずの理念でギルドは今や最大手になっている。
かくいう俺も、乾杯したい。
だが俺よりも羨ましそうにしている人がいた。
艶やかな金髪――相沢未知留。
「いいなあ……」
わかる。俺もうらやましい。
だがそれよりも一番気になっていたのは、彼女のプレイヤーネームだ。
俺はギルドの中でも古株で、ほとんど全員を知っている。
寡黙な『ガルダン』か、それとも孤高の『ベルニチア』だろうか。
そのとき、うちの副団長が声を上げた。
眼鏡をかけたスーツ姿のイケメンで、イメージ通りだ。
「えー、団長への写真は後で有料にしますので、いったん停止でお願いしますー」
冗談まじりのトークで、ギルド員がわっと笑う。
俺はもちろん、相沢も笑顔だった。
へえ、こんな顔もするのか。
「ちょっと遅くなりましたが、こちら名札作り終えましたので、それぞれ取りに来てもらえますでしょうか? くれぐれも、なりすましはご遠慮くださいね」
名札とは、ゲーム内のプレイヤーネームのことだ。
わざわざ手作りしっかりと作ってくれたらしく、取りに行くと、そこには俺のキャラクターがプリントされた横に『フブキ』と書いてあった。
こちらは次回のオフ会でも使ってほしいとのことで、ちゃんと保管しておいてくれるとありがたいとのこと。
そのとき、後ろから声を掛けられた。相沢だ。
「あの、藤崎……ありがとう。来てよかった。楽しいよ」
「良かった。俺も楽しい」
ばったり出会ったとき、彼女は帰ろうとした。
『……あの、それじゃあまた』
『オフ会、行かないのか?』
『だってほら、絶対浮くじゃん……』
前を向くと、そこには会社員や若い姿もいたが、相沢のような金髪はいなかった。
『……同じギルドってのは驚いたけど、そんなの気にするなよ。俺には今日、会いたい人がいる。きっと、相沢と会うことを楽しみにしてるやつもいるはずだ。それに、相沢もいるんじゃないのか?』
『……いる……けど』
『だったら、行こう』
見た目によらず、なんて失礼だが恥ずかしがり屋らしい。
オフ会で嫌な思いをしたことがある人もいるので、少し心配だったが、ギルドメンバーを信用してよかった。
席に戻ろうとすると、後ろから声がした。
「君が『ミチル』か。この前の戦いも見事だった。ありがとね」
「あ、いえ!? と、とんでもない」
副団長の褒め言葉、思わず耳を傾ける。
直後、ミチル団長の声がした。
「ミチル!? おおおおおおお、会いたかったぞおおおおおおおおお。いつもいつもありがとなあああああああ」
「シ、シズク団長!?」
「先日の戦い、見事だった! また奴らをぶっつぶそうなあああ」
「え、ええ!? は、はい!」
誰がミチルなんだと思い、振り返ろうとしたが、大勢が前に出て戻れない。
ギルド内でミチルは、シズク団長に次ぐ最強格だ。
類まれな力強さで敵を倒していく。
良かった。来てたのか。
声からすると、女性だったらしい。
席で待っていると、相沢がふうと歩いてきた。
だが名札を見て、俺は目を見開く。
相沢も気づいたらしい。
俺が『フブキ』だってことに。
「え、『ミチル』って」
「……え、え、ええ!?」
毎晩、毎週、朝から晩まで遊んでいる親友――ミチル。
その正体はなんと、相沢未知留。
俺の隣の席の、容姿端麗、総合テスト一位の、金髪ヤンキーガールだった。
――――――――――――――――――――――
あとがき。
まずは予定調和(/・ω・)/
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