92話 罪咎ー6

バサ

「どうよ、決まってるか?」

「はい!とっても似合ってますよユジィ様!

………おう

次の日の朝、亜人領で次の英雄を捜索するためその土地の流行ファッションに着替えようとなりそれぞれメローダが選んでくれた服装へと着替える

俺は薄い赤を基調とした半袖長ズボン、その上に灰色のローブ

「これが流行りの服装なのか?」

「はい!ローブから覗く赤色は今季注目です!」

ふーん

ファッションセンスは皆無な俺だが、まぁ鏡を見て違和感はないからいいか

「それにしてもカムナギ…お前あの和服にこだわりはなかったのか?」

凛とした和服は見る影もなく異世界服に変わってしまったカムナギ

「和服?…まぁ前の服は師匠の行きつけの店で買ってただけでここでは浮くからな」

青色の厚い長袖に灰色の腰巻きと紺色のズボン

「それに動きやすいならどんな服でも支障はない」

ちぇ…和服かっこよかったのに

「私はどうですか!?」

黄土色のスカートを履くテトラ

………

「かわいいね」

「じゃ行こっか」

「反応薄い!!」

メローダに案内され隠れ家からエストニ公国の要所「カルニバ」の大通りへと出る

「賑わってますなぁ」

「人種領と違って」

円形状の大広場から伸びる全方位の大通りには様々な出店が軒を連ねる

出店の数もすごいのだがそれを上回る客…というか亜人の数

「ここは交易の「中継地点」と呼ばれる場所なので様々な物資が安価で取引されているのです」

歩きながらメローダの説明を受ける

行き交う馬車を避けながらカルニバを練り歩く

「ユジィ君、昨晩に英雄さんの気配を感じ取ったんですか?」

「そうだ、昨日の夜今から行く所に英雄の気配を感じ取った」

「気を張らなくても感じ取れたから、今回は相当強い英雄の可能性がある」

………

ザッ

立ち止まるカムナギ

「なぁユジィ」

「そいつと俺はどっちが強いんだ?」

ん〜

「見てみないとわからない…てのが正直な所だな」

「でも気配だけだと同じくらいか…今回の英雄の方が上だな」

ふっ

笑うカムナギ

「そうか、なら早く会ってみたいな」

うんうん

いい対抗心じゃないか、本当はカムナギの方が上だけど…嘘ついて正解だな

「この先の道路を行って………?」

目的地目前で立ち止まる

目の前には並べられた木杭と張られたロープ

その前には亜人騎士

「何かあったんですかね」

小声で尋ねてくるテトラ

「知らん」

「少し聞いてみますね」

颯爽と歩くメローダ

バサ

ローブを脱ぎ見える長耳と綺麗な茶髪

「すみません」

話しかけたのは亜人騎士ではなく野次馬のおばさん

…そっちかい

ゴニョゴニョ

何かを話している2人

「お、帰ってきたぞ」

フードを再び被り帰ってくるメローダ

「どうやら昨晩、ここで殺害があったみたいです」

「なんでも民間の亜人と騎士が殺されたらしいです」

な…まさか

「亜人騎士が殺されたって…犯人は相当強いんじゃ…」

嫌な妄想が脳裏をよぎる

頷くメローダ

「亜人騎士は魔法石の鎧で魔法域を底上げしているので…そこらの賊にやられるとは思えません」

「それに夜間警備の騎士は基本的に二人一組ツーマンセル

「ですが…そうですね…」

言葉が途切れるメローダ

メローダも俺と同じ想像をしているのか…でも言葉にはしない

亜人騎士を殺したのは

「英雄の可能性も視野に入れた方が良さそうだな」

カムナギは前を向く

「なんにせよここで俺たちがやる事は一つ」

「今夜その犯人を捕まえる…英雄であろうがなかろうが平気で他者の命を奪う野郎は見逃せねぇ」

「だよな、ユジィ」

ふっ

「あぁ、それでこそ英雄だ」

「今夜ふざけた野郎をとっちめようぜ!」

「「おう!!」」

かくして当面の目標はエストニ公国で夜な夜な起こる殺人事件の犯人探しにあいなった

話から犯人は相当な手練れであり我々が探す英雄の可能性も捨て切れないのだが、カムナギがいればなんとかなる…といった他人任せの安心感がある

だがその安心感に任せるのではなく神として今度はこいつらのサポートを惜しみなく…

「あの」

テトラが口を開く

「とっちめるってなんです?」

……

「うるさい」



ヒューー

「うぅ…寒いですね」

事件現場視察から時はすぎ空は暗く月が光る時間帯

テトラ、メローダと共に「カルニバ」を散策

「ユジィ様」

先程までのローブを脱ぎベストにスカートという可憐な姿になった

「カムナギ様は…お一人で大丈夫なのでしょうか」

「まぁ…気配察知はカムナギの専売特許だし、俺らがいたら邪魔になるだろうからそばにいない方が安全だと思うぞ」

「そ、そうですよね」

苦笑いのメローダ

ビュービュー

そびえる時計台の天井で足を組むカムナギ


・・・


上空では雲が流れる

風に靡く髪の下につむる両目

「………ふぅ」

息を整えエストニ公国を見下ろす


タッ

カクリヨは上体をお越しそのまま降下する

ダッ!

ダダダダダ!!!

時計台を勢いよく走り下る

ダッ!

ビュンビュン!!!!

地を蹴り目にも止まらぬ速さで連なる屋根を駆け抜ける

バッ!

刀に手をかけ飛び降りる

ギン!!!

【獄域・旋迅せんじん

「靡切り」

ザァン!!!

「え………」

カクリヨは裏路地の一人を切り伏せる

バタン

倒れるフードを被った獣人

その者の手には短剣

………

目の前には怯える女亜人

「ひ……」

「キャァァァァ!!!」

女の叫び声に驚くカムナギ

「なんで叫ぶ…今助けたところだぞ」

叫ぶ女は血を見て狂乱する

「さ…殺人よ!!」

「はぁ!?」

バチ!

!!

ギィン!!!

刀で飛来物を受け斬る

(なんだ…今の)

ダン!!

後方に飛ばされるカムナギ

「お前…誰だ」

通りの向こうからくる誰か

「誰だ?…お前に答える義理はねぇぞ」

「クソ野郎」

バチィ!

男は何かを纏う

刀を構えるカムナギ

(あれは…高練度の魔力を纏ってるのか)

「今俺はこの子をまも…」

バチ!

「問答は無用だ」

【獄域・界雷かいらい

男の手には雷が生まれる

雷鳴イカズチ

パッ

男が両手を前に出した瞬間、その場は光に包まれる

(こいつ…)

【獄域・旋迅せんじん

風響フウゼツ

ドッ


ドガァァァアアアン!!!!


亜人領に鳴り響く轟音


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