第四章 罪咎の英雄

87話 罪咎ー1

ジェニクスのとある建物

大扉の前に立つ3人

「ユジィ、テトラちゃん…覚悟はいいか?」

扉に手をかけるのはエリダート魔道学院理事長のオウガ

「……」

黙るテトラ

「覚悟なんていらねぇだろ」

「だって俺たちはクラスメートに会うだけなんだからな」

・・・

部屋の上部には「治療室」の文字

「では行くぞ」

ギィィ

ポタ…ポタ

部屋には四つのベッド

それぞれに輸血パックが置かれ点滴を打つ

「やぁ…久しぶりだね」

「あの戦いから……1週間くらいかな?」

微笑みかけるのは両足が切断されたアンダー生ラルク

ふっ

全身の力を使い口角を上げる

「久しぶりだなラルク」

「魔人種に手を借りるなら俺にも言ってくれよ、仲間はずれにしないでよ」

……ふっ

静かに笑うラルク

「そうだね…そうすればよかった」

「なんてね」

・・・

カタ

「ハピちゃん…りんごだよ」

テトラはフォークに刺したりんごをハピネスに差し出す

「ありがとう…」

もぐもぐ

「美味しい」

笑うハピネスの顔上部には痛々しい傷が残っていた

「大丈夫か…ハピネス」

・・・

「その声はユジィ?」

「あぁ、遅くなって悪いな」

首を振るハピネス

「いいって…ユジィも倒れてたんでしょ?」

「カムナギさんから聞いたよ」

そうか…

ふふ

笑うハピネス

「私ね…カムナギさんから教えてもらった気配を感じ取る修行してるんだ」

「だからそんな悲しい顔しないで…お願いだよ」

言葉が詰まる

ふっ

「修行はまだまだだな…俺は今最高の笑顔だ」

ぷっ

「あははは!」

「笑顔ってどうなの…ふふ」

「ありがとう、色々とごめんね」

プルプル

テトラは小刻みに震える

ぽん

テトラの頭を触るハピネス

「あんなに頼もしかったのに泣き癖はまだまだだね」

「テトちゃん」

……

「ごめんなさい…」

「なぁハピネス」

「アルスとニエルは元気か?」

・・・

ぎゅう

ブランケットを掴むハピネス

部屋にある四つのベッドの内、奥の二つは空白

「私はまだ会えてない」

「ごめん」

そうか

「謝ることじゃない…まずは自分を労ってやれよ」

「2人とも」

……

「じゃあな、楽しかったぜアンダークラス」

ギィィ

バタン

廊下を歩く3人

「あの場所に残っててもよかったんだぞテトラ」

隣を歩くテトラ

「いや、私も会うべきだと思うから」

「アルスくんとニエルちゃんに」

「なぁ2人さん」

「アルス君とニエルちゃんには話ができない」

「今はただ会うだけいや…眺めるだけになるが」

「それでも進むか?」

何回も言わせるなクソジジイ

「クラスメートに会うだけ…ただそれだけだ」

ガコン!

先ほどの扉とは違い重厚な扉…いや、檻が開かれる

「あぁぁぁああ!!!」

ドンドンドン!!!

部屋は怒号と奇声に包まれる

目の前のガラスを叩くのは

「アルス…」

「アルス君」

口を覆うテトラ

ガラスの向こうには手足を固定され喚きまわるアルス

「経過はどうだルベド」

カツカツ

オウガの呼びかけに白衣を着た人種のお姉さんが歩み寄る

「経過は最悪…記憶があの子を蝕んでる」

「手足を拘束しないと自傷行為で1日を待たずにあの世行き」

アルスは悪魔に記憶を捧げた

その代償か、あの戦いから目覚めたアルスは1人で悶え叫び続けている

カリカリ

白衣のお姉さんは紙にペンを走らせる

「正直カムナギ様の提案を受け入れた方が良かったって思うんだけど?」

首を振るオウガ

「現状の先延ばしにしかならん」

グイ

服を引っ張るテトラ

「カムナギさんの提案って…ユジィ君が言ってたやつ?」

「覚えていたのか2日前のことなのに」

「私をどこまでバカだと思ってるんですか」

2日前

荒れ狂うアルスの情報を聞いた俺は、ヤツガレ教団にいる氷魔法が大得意な奴の力を使いアルスの呪縛が解放される糸口が見つかるまで氷づけにした方がいいと言った

まぁ俺が言っても説得力ないからカムナギに任せたけど

「まぁ断る理由もわからなくもないが…目の当たりにすると」

「どうだかねぇ…」

ガタガタ!!

拘束具がうねりをあげる

「……」

目を逸らさずアルスを見つめるテトラ

「大丈夫かテトラ」

頷くテトラ

「うん、大丈夫」

「私がみんなを助けるよ絶対に」

バッ

頭を下げるテトラ

「ユジィ君」

「前は逃げちゃったけど、私もあなたの旅に連れて行ってください」

「まだ弱いけど、絶対に足は引っ張らないから…みんなを助けるために他種の領域に行きたいの」

「お願いユジィ君」

テトラの目は以前の弱々しい目ではなく決意の眼差し

「おう、こちらとしても願ってもない頼みだよ」

「この世界の英雄として助けてくれテトラ」

ぎゅ

差し出した手を強く握る

……

「じゃあここからは俺1人で行かせてくれないか」

「あいつには積もる話があるんでな」

静かに頷くテトラとオウガ

カツカツ

アルスの部屋を出て別の通路を歩く

薄暗い通路の先から溢れる光

ピーピー

対象者の心肺脈を図る魔道具が並べられそこから伸びるくだは1人の少女を繋ぐ

「半月くらいぶりか……ニエル」

全身包帯巻きの少女

大部屋の中央にある台に横たわるニエル

横に立ちニエルの状態を確かめる

・・・

はぁ…

「ごめんなニエル、痛かったよな…苦しかったよな」

「寂しかったよな」

ポタ

なんで年端も行かない少女がこんな目に遭わなければいけないんだろうか

「ニエル、またお前のお弁当が食べたいな」

ピーピー

部屋に響く音

「おれさ…明後日に魔道学院を出て旅に出るよ」

「アンダークラスは消滅、ジェニクス議会は高域でも出力が劣る人種は強制的に人種界「カンパレラ」に設立される学院に移動になるんだってよ」

「前にお前が言ってたジェニクスの美味しい肉屋に行ってきたぜ、そこの店主がさ…」

答えは返ってこないとわかっていても話しを続ける

ニエルが退屈しないように

……

「それでさ……それで」

……

「ごめん、お前の悲鳴は聞こえてた」

「けど俺が弱いせいで助けれなかった…ごめんな」

「今度は必ず助けるから待っててくれよ」


「またなニエル」

帰りの廊下を1人で歩く

……ぼふ

「大丈夫か」

目の前には共に旅をした英雄

カムナギが微笑む

「そんなに泣いて」

「まさか終末点を殺すとか息巻いてた奴がこんな所で止まるのか?」

ドン

腹パン

「なわけねぇだろ」

「旅をする理由が増えただけだ、問題はない」

ふっ

「そうだな、頼んだぞ神の代理人はお前しかいないんだからな」

「おう」


その夜エリダート魔道学院を出て人種界カンパレラへと進む







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