86話 劣弱ー48

「うぅ〜痛いよぉぉ」

保健室にこだまする嘆きの声

首を曲げ声の主を拝む

「はい……全力で走ります」

うなされるのは緑髪のテトラ

何言ってんだこいつ

・・・

窓の向こうにはあったはずの校舎が吹き飛んでいる…となると

戦いは終わったようだな…

ゴソ

寝返りを打つ

「何も…できなかったな」

カクリヨとかいう変人に翻弄され…悪魔の祭儀には何も干渉できなかった

気配からして悪魔は召喚されていない…あいつらは無事なのだろうか

・・・

「なんでずっと座ってんだシノビ」

ベッドの横で座っている仮面を被るカラスの獣人

「ユジィ様が目覚めるまで…護衛しようと座っていました」

あぁ…そう

「悪いな、ありがと」

……ポタ

!!??

シノビの目からは涙‥‥涙??

「どうしたシノビ」

震えるシノビ

「いえ…私が目を覚ました時はすでに時遅く、ユジィ様が倒れていました」

「私は危うく我々の…いや世界の救世主メシアを失う所であったと己の不甲斐なさに怒りを通り越し呆れ果てているのです」

「それなのにユジィ様は私を戒めるどころか謝意を述べるなど…私は主人の度量の深さをも見誤って…」

話の途中だが、何を言っているんだこの者は…

正直あの異空間にいてくれただけでも心強かった……なんて今言っても届かないんだろうな

「このシノビ!!」

「ヤツガレ教団「守護団ガーディアンズ」団長として…より一層の自覚を持ちユジィ様に仕えさせて頂きます!!!!」

……

「おう…頼りにしてるぞシノビ」

「じゃあ一つ頼まれてく…」

「かしこまりました!!」

熱のあまり主人の言葉を遮る暴挙に…まぁいいけど

「教団の現状と学院にいる改革軍ビフレストの状態を調べてくれ」

「頼んだぞ」

「ハッ!!」

ブワン

消えるシノビ

ボフ

再びベッドに横たわる

……

気になる事を整理しよう

・アンダーの生徒はどうなったのか

・魔人種が祭儀を中断した理由

・改革軍は魔王軍侵攻の対応はどうするか

・隣で寝てるアホ(テトラ)はなぜ無傷なのか

・出動した守護団ガーディアンズから負傷者は出たのか

まぁこんくらいか

「1番はあのカクリヨとかいう奴だけど…まぁ今どうこうできる問題でもねぇか」

バサ

隣で突如目覚めるテトラ

・・・

無言で保健室を見渡す

「あ…なんで寝ているんですか」

こちらを見るテトラ

「いや…おれもさっぱりなんだけど」

「なんか気を失ったみたいで」

ドドド

ガシ!!

!?

胸ぐらを掴まれるワタクシ

「私…悔しかったんです!」

至近距離で謎の宣告を受ける

「私は!!もっと戦いたかった!!!」

……?

「ちょっと待て…何を言ってるんだお前は」

ガッ!!

「なんであの時…無理にでも戦ってくれなかったんですか!」

「祭壇ではあんなに戦えって言ってたのに!!」

話がまるで理解できない…

「今度はもっと強くなるから…勝手に消えたりしないで」

「私だけじゃみんなを救えないから、お願い」

「ガイア」

・・・誰?

眼前で泣くテトラ

今俺の脳内を駆け回るのは(寝起きでよくこんな感情を表に出せるな)である

ガラガラ!!

む……

扉に立つ少女と目線がかち合う

「…何してんのあんた達」

「俺もわかんない」

「てか助けてくれ…メイ」

ビシャン!

「今…メイと言いましたか?」

「え…あぁはい」

じーー

目をこらすテトラ

「ていうか…あなた誰ですか?」

イラッ

そうかメガネをかけていないこいつとは喋らない方が良かったんだった

そうだ…いい事思いついた

「おほん」

「私はエリダート魔道学院で起きた事件を調査するために派遣された」

「ジェニクス騎士団のキシダである」

!!

ドドド

バサ!!

後方に下がり綺麗な土下座

「ももももももうしあえらけたから!!!!!」

……なんて?

「*#$%&#$&%#$%&$%&#&#$%&!!!」

もういいや

「ほら…隣の机に置いてあったぞ」

「とりあえずかけろ」

メガネを手渡す

「すみません!!忘れていました!!」

1番忘れないだろ

………

メガネをかけこちらを見上げるテトラ

「あ……あれ?ユジィ君」

騙したのは悪いが…まぁ教訓だと思ってくれ

「先ほどまでいたキシダ様は…どこへ行かれたのですか?」

………うそん

魔力の気配でわかるだろ…その前に動作とかで大体察せるだろ

「はぁ…もういいや」

「なぜ諦め口調!?」

バカは変わんないが気配に関していうなら数日前とは雲泥の差

やっぱ英雄の素養があったんだな…俺にだけでいいから種を明かしてから英雄探しをさせて欲しい

バッ!

「キャァ!!」

その場に現れるシノビと驚くテトラ

「……大丈夫ですかテトラ様」

「……はい」

はぁ

「で、どうだった?」

「はい、教団各位はカンパレラに帰還し通常業務に戻っています」

それは優秀なことで

「改革軍なる者は魔人種に対抗し負傷した者を除き人種領最北端の砦「エルスト砦」に向かっています」

「砦?」

「はい、おそらくは攫われた人種達を取り戻す…という目的だと思われます」

このタイミング、まさか

「こちらのタイミングで人種を取り返す作戦を決行した…ということか?」

「恐らく」

「奴らは最初からこちらに魔人の軍勢が来ることを想定し遠い彼の地に人員を割いていたと思われます」

……

作戦の指揮を取ってたのは多分オウガのクソジジイだろう

確かに捕虜を奪還するのは重要だがせっかく建てた学院を犠牲にするのか?

……まぁなんか秘密があんだろうな………知らんけど

ピコン

手に浮き出る文字

次元生命維持率:70.3%


生命維持率下降ライン:65%

これより下回ると神格者不適合となり楽園送りになります

あ………

「上がってるぅぅぅ!!!!!」

!!!???

歓喜する俺と困惑する1人と1体

「どうされましたか!??ユジィ様!!」

この感動を皆にも味わってもらいたい

ガラァ!!

「大丈夫か!!」

「お!!カムナギ!!」

ダダダ

ドンドン!!

「ひっさしぶりだなおい!元気だったか!」

「なんだ…そのテンションは」

ドンドン!

「肩を叩くな肩を」

ダダダ

廊下からは走る音

ザッ!

「ユジィ起きたのか!!」

廊下には双子

「イオ!お前も数日ぶりだな!」

ジト…

冷めた目で睨むメイ

「メイ!おはよ…ふぐ!!」

口を鷲掴みにされる

「その前に…テトラを放って置いてどこ行ってたの」

「大事な英雄が死んだらダメでしょ」

…めっちゃ怒ってた

「がは…それはだな」

「メイ様!!」

俺とメイの間に入るシノビ

「それには理由があるのです…敵の間者が我々を別次元に隔離していまして」

「別次元?」

ここは俺が説明しなくては

「あのだな…かくかくしかじかで…」

・・・

腕を組むメイ

「なるほど…じゃあユジィでも手こずる相手が終末点側にいるって事?」

「そういうことらしい…名前は「神官カクリヨ」」

・・・

ドン!

カムナギに背中を押される

「そう気に病むな、相手が強くなるのなら俺たちがその上を行けばいい」

「修羅の道だが…それしかないだろ」

おぉ…さすが年長者

「そうだな!そうだよな」

「うん…その通りだね」

頷くメイ

「てかよ!カムナギめっちゃ強くなってんな!」

カムナギに詰め寄るイオ

ふっ

「あぁ…それに有益な情報もつかんだ」

「「「有益?」」」

ぺら

懐から紙を取り出すカムナギ

「俺があった長老曰く英雄と呼ばれる存在は数千年前にもいたらしい」

「伝承によれば【英雄達は大地を奏でて力を極めていた】と書いてあったんだ」

大地を奏でる…また大仰な言い回しで

「英雄達は神の御業みわざをその身に降ろし戦う事が英雄にのみ許された戦いの極地…なんだとよ」

……

静まる一同

ピッ

手をあげるテトラ

「あの!」

????

「わ…私、楽器とか全然ダメで…」

「いつも先生に怒られて…お家で讃歌をいた時なんてすっごい怒られちゃって」

テトラは喋るが意味を理解出来たものはいないだろう…

「つまり、私はその英雄の極地にいけないので…ごめんなさい」

・・・

ぶっ

「ふはははは!!!」

腹を抱えて笑うイオ

ふっ

顔を隠して笑うカムナギ

「ちょっと…テトラあんたね…」

「楽器弾きながら戦うつもりなの?」

笑いながら問うメイ

「え!?…いや…まぁ」

「そうですよね」

ふっ

「まぁ…君の言うこともわからなくはない」

優男のカムナギ

「これは俺の解釈だが、その極地に行き着いた時に発する膨大な魔力で大地がうねりをあげる事を文章に誇張したんだと思う」

ぽん

手を叩くテトラ

「なるほど…頭いいですねカムナギさん」

ふっ

「さん付けはやめてくれ…俺も名で呼ぶからテトラもカムナギと呼んでくれ」

「これから共にする仲にさん付けは照れくさいからな」

「はい!…徐々に呼びます」

「あぁ」

頷くカムナギ

そういえばちょうど英雄達が揃ったな…なら

「えぇ…では次の英雄を発表します」

!!!!

「もう反応してんのか!」

「早く言いなさいよ!!」

三者三様の反応…と、意味を理解出来ていないテトラ

「テトラ、要するにお前の次に英雄の素養を秘めてるやつが見つかったって話だ」

!!

「そ…そんなに早く英雄は見つかるもんなんですか!??」

いつも通りの反応

「うん」

「で!どこにいるんだよ!」

詰め寄るイオ君

英雄レーダーをビンッビン!に立てて…ここは…

「地図をよう…」

バサ!!

カムナギの手には小さな世界地図

「これでいいか」

「おう」

トン

「ここだな」

指を落とした場所に視線を送る英雄達

「ここは……」

「まじか」

地図を見てみると

「亜人領「エストニ公国」」

え……亜人領

思い起こされる亜人との思い出

罠に嵌められ獣人種に身売りされ(自分でやったけど)

エルフの亜人に殺されかけた(自分で城に入ったけど)

「いやぁ…これはまた」

「面倒なことになりそうだな…ははは」

ワロエナイ

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