西園寺美鈴の苦悩
おめがじょん
西園寺美鈴の苦悩
その日、唐突に西園寺美鈴は気づいてしまった。
(もしや私……色気がない?)
流星寮一階の縁側にてロングチェアに腰かけながら本を読んでいた彼女は一人表情には出さずに悩み始めた。すぐ近くでは寮生達が半裸でえっちな格好で料理をしているお姉さんの配信動画を流しながら、トランプをしている。家に早く帰りたくない美鈴にとってここは丁度いい場所であった。出てけとも言われないし、顔を出すとお茶も出てくる。何より蔵書の数が凄い。貴重な魔術本が鍋敷きにされていたり、トイレで積み重なったりしているが本が好きな美鈴にとっては宝の山のような場所だ。
「はい──これ」
「通らねぇよ。流石にこっちの方が可愛い」
「審議に入ろう。八代、プレゼンして」
「確かに顔は微妙だけど──見ろ。この見事な乳輪。大きさと色のバランスがベストじゃんね。顔は劣るけど乳輪の素晴らしさと大きさじゃこっちの勝ちでしょ」
「ううむ確かに。この子のおっぱい凄く良いよな」
「いやいや、乳輪でかすぎない?」
「でも、乳首デカいのは俺の中でポイントが高いぞ」
彼らがやっているのはヌードトランプ大富豪だ。
数字ではなく書いてあるヌードモデルの可愛さで強さが決まる。しかし、性癖や美的感覚は人によって違うのでカードの強さにバラつきが出る。そのような場合は「審議」をする権利を行使してプレゼンを始める。その結果、参加者の半数以上の承認を得られればカードを場に出せる。宇宙一しょうもない特殊ルール大富豪がここ最近流星寮では流行っていた。
(この人達にすら見向きもされないって……)
四六時中女体の事を考えているこの色ボケ連中にいやらしい事をされた事が一度もない。先輩の千ヶ崎真央が偶にスカートを履いていると「今日は天赦日や」ぐらいの勢いで涙を流して喜ぶ連中なのに。実際、美鈴も今日は珍しくスカートを履いているのに男達は何の反応もない。美晴とノエルは褒めてくれたのに。
「だァーーーーーッ! 何でそれが止まるんだよ! 明らかこっちの方が可愛いだろうが!」
「この小麦色の肌と下着の色がいいんだろうが! 褐色には紫しか勝たん!」
「成程。コンボか……。新視点だ」
宇宙一醜い言い争いをしている男達の方をちらりと見て、片足を上げて足を組んでみる。
「うるせーーーー!!! 何が新視点だ! ただの貧乳じゃねーか!」
かなりきわどい角度のつもりだったが男達に一瞥すらされなかった。
やはり、自分の容姿は性的魅力が皆無だという事だろうと美鈴は落ち込んだ。真央のスカートが風で揺れただけで反応する男達なのに。思えば、異性に誘われた事は一度もない。このまま一生非モテ生活を送るのか。きっと西園寺家が選んだ男に嫌がられながら結婚するのだろう。
あからさまに浮気されて。何を聞いてもはぐらかされて。そうやって一生を孤独に終えるのだ。生真面目すぎる性格がゆえにどんどん美鈴は沈んでいき──もう帰ろう。これ以上傷が広がらない内にと落ち込みながら立ち上がった。
「あれ、美鈴もう帰るの?」
「……はい。失礼します」
「体調悪い?」
「そういうのじゃないです。元気です」
「ンだよー。元気なら飯まで食ってけよ。おっ。そうだ。今日は天気も良いし、バーベキューやろうぜ」
めざとく八代がトランプを中断して美鈴を宥めるようにして話しかけた。
美鈴の様子が普段と違う事に気づいたので、いつもより少し強引に誘っていく。他の寮生達も八代の意味ありげな視線に気が付いたのか、テンションを上げて美鈴包囲網を追加していく。
「冷蔵庫に丸鳥あったよな? ビア缶チキンやろうぜ!」
「とりあえず小腹減ったから関根先輩チャーハン作って下さい! 俺ら火おこしとか準備してますんで!」
「おう。じゃあ美鈴ー。窯出すの手伝ってくれや。山崎まだ授業中だから、お前がいないとちょっとキツい」
「え……? ああ、はい……」
えっせほいさと酒をぐいぐい飲みながら準備を始めた寮生に押されるように美鈴が寮の中へと消えていった。
女性が一切寄り付かない東魔大の魔境、流星寮。
だが、ぶつくさ文句を言いながらもなんだかんだよく顔を出してくれる美鈴を寮生達はとても可愛がっていた。一番可愛がっている後輩だから大切にされているという事に気が付かない美鈴は落ち込みながらも寮生達の無駄に高い料理スキルから繰り出される料理に舌鼓を打っている内に、何時の間にかその悩みを忘れてしまっていた。
西園寺美鈴の苦悩 おめがじょん @jyonnorz
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。西園寺美鈴の苦悩の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます