第3話 桜花
あれから二ヶ月も経つのに私たちはお互いに気まずい雰囲気で一歩も進めないでいる。
もう今日はひな祭りの日だ。ここの社は女神(おながみ)だと言うことでひな祭りには舞いを奉納している。
去年までは私は過疎の村の人手不足で稚児舞いをしていたが、やっと後継者ができて奉納舞いができる。
奉納の真舞いになると化粧も衣装も大人の装いになる。所作も薄衣を揺らしながら進むさまは我ながら天女に乗り移られたかのようだ。
桃香が進んでいく。俺は魅入られたように眼が離せなくなった。
社には榊さんの供えた桃の花。稚児の供えた梅の花。そこに桜花を重ねて薄衣をさっと外して供えて奉納は終わる。
俺は奉納を終えてまだこの社の女神である機織津姫が未だ降臨しているかのようにぼうっとしている桃香の前に進んで行く。
真舞いの化粧をした桃香はより大人に見える。
そんな桃香の前に立った俺は彼女に『綺麗だ』としか言えなかった。
舞いの熱が身体に残っている。圭輔が何かつぶやいた。
私も奉納した薄衣と一緒に織った薄衣を圭輔に渡す。
天の河を挟んで向こう岸にいる恋人に届くように薄く薄く縫い上げた絹が圭輔まで届くように。私の想いがあなたに届くように。
桃香は桜の花言葉が示すような優美な女性になっていた。
花言葉の杜 その三 菜月 夕 @kaicho_oba
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます