カーミラ編1
「頼むぜ? 『メイン』 君」
クマ女はそう言うと、大きな扉の取っ手に手をグッとかけた。
「うわっ!」
扉がグワッと開け放たれ、中から紫色の光が漏れだした! 同時に、まるで雷が巨木を撃ったような歓声が、童子の肌をビリビリと震わせる!
『うるさっ…!』
童子は思わず耳をふさいだ。一方、台車を押す女も熱気に当てられたらしい。ゴクリと生唾を飲んだ。
「すっげぇ盛り上がり…こりゃ一世一代のオークションになるぞ」
震える肩を、クマ女が力強く叩いた。
「緊張すんな。誰もお前なんざ見てねぇ」
クマ女はストッキングを履いた滑らかな足で、童子の入る檻を揺らした。
「メインはコイツだ」
「…っスね。よーし。やるぞやるぞ」
女はそう言うと、童子の乗った台車をゴロゴロと押していった。
『わぁーーーーーー!!!』
『ピューピュー!』
そこは、真っ暗な空間にミラーボールだけが浮かび、強くミストの焚かれた異質な空間だった! その光景に、童子は思わず目を凝らす…と、ミストの中に、何人もの群衆がいるのが分かった。
『何だ…こいつら』
群衆は、ミラーボールの光で照らされる一瞬だけ顔が見える。年齢はバラバラだが、比較的若いヒトが多く見えた。同時に、その身ナリからは羽振りの良い様子が伺い知れて、この異質な場にふさわしいアンダーグラウンドな雰囲気を漂わせている。
童子を乗せた台車は、その明らかに合法じゃない…衆目監視のステージの真ん中で停められた!
「さてさて皆サマ」
クマ女が、何処からか取り出したマイクで話し出した。すると、さっきまでのザワメキは収まり、漂うミストだけが場を支配した。
「本日のメイン…ヒトオスの子供でございます」
「おいっ! 何の子供だって? このやろう!」
童子が! 柵を蹴飛ばした!
「おいっ、暴れんじゃねぇ」 女が柵の隙間から目を覗かせ、童子を注意する。
その目を! 童子は指で突いた!
「うぎゃ!」
「ざまぁみろ! バ――カ!!」
『ザワザワ…』 会場が揺れる!
「このガキ…」
「落ち着け。どうどう」
クマ女は台車の女を落ち着けると、マイクを口に寄せて鼻で笑った。
「御覧の通り、イキは大変よろしゅうございます」
『はっはっは!』 『ふふ…』
「ふざけんな! 早くココから出しやがれ!」
「言われなくとも、出してやりますとも」
「なにっ?」
クマ女はコツコツと靴音を鳴らし、童子の柵にまでその黒い皮靴を近づけた。さらに屈み、ポケットからひとつの小鍵を取り出す…屈んだ際に確認できた太モモは、大層立派な厚さだった。
「今開けてやる」 その言葉と同時に、クマ女は鍵穴に鍵を差し込み、ガチャッと回転させた。
「やった!」
童子は柵扉を開け放ち、ハジき出されたように外へと飛び出した!
…が、しかし!
「ぐえッ!」
首に、鎖が絡みつく!
さらに、『キュララララ!』 機械のような音が鎖を巻き取って、童子のことを強制的に立たせた!
「さぁ、皆様に見せてさしあげな。お前のそのカラダをさ」
「くっ…」
巻き付いた鎖は、童子がギリギリつま先立ちになるくらいにまで、彼の首を持ち上げてしまった。
「この…」 身をよじり、鎖を外そうとする…しかし、もがくほど、つま先でのバランスが取れなくなる。「うぐ」 まだ突出しきってない喉ボトケに、冷たい鎖の感触が這いずった。
その姿を! 熱い体で見守る連中がいる!
すでにその胸の内には、耐え切れない程の劣情がコポコポと沸き上がっていた。
「さて、この男の子供。手に入れる方法は至ってシンプル…すなわち」
クマ女は会場を見渡し、煽るように口元を歪ませた!
「この場で、最も多く金を払えばいい。それだけです」
そこから、特別なことは何もなかった。ただ会場から数字の声が上がり、クマ女がそれを制御した。
『…! 何なんだよ!』
童子はその上がる数字が、自分の値段だと理解する間もなく…やがて上がった一声を、鎖を外そうとしながら聞いた。
「50億」
会場の声が、ピタリと止んだ。
「私、50億出します」
「…他、いらっしゃいませんか?」
『………』
「…貴方、お名前は」
乱雑に走っていたスポットライトの光が、その女性だけを一本の光で照らした。
「カーミラです。カーミラ・インゲート」
「インゲート? あぁ、それはそれは」
クマ女が何か言おうと、舌を回した…が、今すべきじゃないと判断したらしい。『ゴホン』 と一度咳払いして、仕切り直した。
「分かりました! カーミラ・インゲート様。50億での購入です!」
「おい! こんなの犯罪だぞ! ケーサツ呼ぶぞ!」
「インゲート様。壇上へ」
童子の一切はスルーされ、淡々と進行する。
やがて壇上に、その女性が登って来た。
「こんばんは」
その女性…若い。20代は間違いないが、顔に残るあどけなさと、世俗にまみれてないような純粋な瞳が、より彼女を若々しく見せていた。金色っぽい小麦色の髪を、肩くらいまで下げている。
同時に、服の上からでも分かるほどスタイルが良い…クマ女ほど大きくないにしても、普通からすればかなり羨ましいレベルの胸をしていた。ゼイタクな話だが、この大きさが最も美しく映えるサイズだと豪語したくなるようなモノだった。
「テメェ…なんだよ!」
「貴方を買った人ですよ」
「買っただぁ? はんッ、売られた覚えはないね」
「あらあら、ホントに活きの良い子」
カーミラは吊るされた童子に近寄ると、
「貴方、名前は?」
と言った。
「名前? 言わねぇよフシンシャ!」
「おい、あんまし失礼なクチきくと、後で後悔するぞ」
「くたばれ! クマ野郎!」
「く、クマ野郎…」 クマ女はほどよくショックだったのか、一歩後ずさった。
その時、『ガシャン!』 さっきまで童子の入っていたカゴに体が当たる!
「あら、そうですね…それでは」
カーミラはカゴを見やると、再び童子の顔を見つめた。
「『メイン』 と、仮にそう呼ばせてもらいましょう」
カーミラはそう言うと、今しがた50億使った人間とは思えないような微笑で…鎖に引っ張られ、自分を睨みつける童子の目を見つめた。
ショタ、逃げるだけ ポロポロ五月雨 @PURUPURUCHAGAMA
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