2 お腹いっぱい食べたいな。
お腹いっぱい食べたいな。
ふわりは街の中をあてもなく歩いていた。おなか減ったな。もうおなかが減りすぎて歩けない。
ふらふらしながらふわりは歩いている。
貧しくても心までは貧しくなってはだめよ。清く正しく生きなさい。お母さんの言葉を思い出す。
でもむりだよ、お母さん。
貧乏には負けるよ。
お金がなくちゃ生きていけないよ。
ふわりはビルの石壁に寄り添うようにして座り込んだ。
それから目をつぶってお母さんがまだ生きていたころの家族団らんの楽しい時間を思い出した。
りんご食べたいな。
そんなことを思っているところんと近くで音がした。
ふわりが目を開けるとそこにはなんとりんごがあった。
本物のりんご。
古くない真っ赤な色をしたつやつやのりんごだった。
ふわりは思わず嬉しさのあまりそのりんごを食べそうになってしまった。でも寸前で大きく開けた口を閉じた。
……危ない、危ない。
このりんごは私の買ったりんごじゃない。食べてはいけないりんごだった。
それにしてもなんでこんなところにりんごが落ちているんだろう?
そんなことをふわりが考えていると「あ、あった」と小さな子供の女の子の声が聞こえた。
その女の子はふわりの目の前にあるりんごを手に取ると布で拭いてそのりんごを後ろにいる大人の女の人に見せる。
「お母さん。りんごあった」
「遊んでいるから無くしちゃうのよ。今度はちゃんと持っているのよ」とお母さんは言った。
「落としたりんごなんて拾わなくていい。新しいものを買うからそのりんごは捨てなさい」と今度は大人の男の人の声がした。
「もったいないよ。お父さん」
女の子は言う。
それから女の子は迷ってきょろきょろすると近くでその様子を見ていたふわりを見つけた。
「猫ちゃん。りんご食べる?」
女の子は言う。
ふわりはうなずく。
「食べたいのね。じゃあこのりんごはあなたにあげるわ。その代わりお願いがあるの。聞いてくれる?」
なに? ふわりが小さく鳴くと「私とお友達になって」と女の子は言った。
裕福そうな家族だったな。
女の子とばいばいをしながらお別れをしたあとでりんごを口で咥えて運びながら、歩いているふわりはそんなことを思った。
このりんごはこのあと姉妹みんな一緒に食べようとふわりは思った。
ただいま、と言って家に帰ると相変わらず元気なきららがお姉様今日はお外でどんなことがありましたか? と戯れながら聞いてきた。
お友達ができましたわ、とそんなきららにふわりは優雅に笑いながらそんなことを言った。
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