聖なるもの

雨世界

1 ……あなたがそれを、望むなら。

 聖なるもの


 ……あなたがそれを、望むなら。


 聖なるもの


 他人のために犠牲になるもの。自分のための欲を持たないもの。みんなを愛しているもの。もう生きてはいないもの。


 探し物はなんですか?


 あるところに貧しい七匹の子猫の姉妹がいた。

 その末っ子の子猫が、世界のどこかにいるお母さん猫を探しに行くことにした。

 待っていてくださいお姉様。

 私が必ずお母様をみんなの元に連れて帰ってみせますわ!  そう言って、末っ子の子猫、きららは急に走り出して、雨の降る街の中に飛び出していった。

 待ちなさい!  きらら!!  そんな危なっかしい末っ子の世話をしている一つ上の姉の子猫のあかりは急いでそんなきららを追いかけた。

 きららはみんなのねぐらの暗い街がどにある手作りのダンボールの家から、明るい街の中にある雨降りの道路の中に飛び出した。

 あかりがどんなに言って聞かせてもきららはお母さんを探しに行くことをやめようとしなかった。

 七匹の姉妹の中で、唯一、末っ子のきららだけが、お母さん猫にあったことがなかったのだ。

 きららはそれがずっと不満だった。

 絶対に自分もお母さん猫に会うんだと、駄々をこねた。

 それがきららの夢だった。

 あかりはそれがとても不安だった。

 ……ううん。ずっと怖かった。

 きららがお母さん猫を求めるあまりに、お母さん猫が旅立っていった『猫の楽園』に、きららが一人で、(いつものわんぱくで好奇心に溢れたきららのように)私たち姉妹を置いて、行ってしまうのではないかと、……それがずっと怖かったのだ。

 あかりはきららを追いかけた。

 でも、雨の中で、あかりはきららの姿を見失ってしまった。

 ……雨。とても強い雨だ。

 ……お母さん。どうか、きららを守ってください。

 あかりは願った。

 そして、またあかりは懸命にきららを探した。

 すると少ししてきららのお気に入りの小さな公園の横で、あかりはきららを見つけた。

 きららは雨の中をきょろきょろと周囲を見渡しながら、(きっと、お母さん猫を探しているのだろう)それから雨のアスファルトの道路を横切って、向こう側の道まで移動をしようとした。

 そこにちょうど、雨の道路を走る一台の車が猛スピードでやってくるのが、あかりの目に見えた。

 きらら!! あかりは走りながら言った。

 ……お姉様? きららは後ろを振り返った。

 その瞬間、ぶー、ぶー!! と言う大きな音がした。車がクラクションをならしたのだ。

 え? きららが言った。

 あかりは無言のまま、きららのいる場所まで全速力で駆けて行った。

 それは、一瞬の『運命の交差点』だった。

 気がつくと、あかりはきららを抱きしめながら、道路の向こう側に倒れ込んでいた。

 ……きららは、震えているけど、無事だった。

 車はどこかに行ってしまった。(きっと、子猫になんて興味がないのだろう)

 きらら、大丈夫? あかりは言った。

 ……うん。大丈夫。ときららは言った。

 その帰り道。

 ごめんなさいお姉様 。

 でも私どうしてもお母様にあってみたかったの。と、 きららは言った。

 もういいのよ、さあ家に帰りましょう。お姉様たちが待っているわ 。とにっこりと笑ってあかりは言った。

 はい 。きららは答えた。

 そうして、二匹は家路に着いた。(雨はいつの間にか止んでいた)

 家に着くと、五匹の子猫のお姉様たちが、きちんと無事に自分たちの家に帰ってきたあかりときららの二匹の子猫の姉妹を迎えてくれた。

 おかえりなさい。二人とも。とお姉様たちは言った。

 ただいま。と子猫の姉妹は二匹で一緒にそう言った。

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